第95回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表

[ODP21] 5. 病原性-a. 接着因子・定着因子

[ODP-105/W6-8] 気管内挿管チューブに定着し実験進化した Acinetobacter baumannii の病原性解析

鴨志田 剛1,山口 大貴1,山田 倫暉1,竹本 訓彦2,八尋 錦之助1 (1京都薬科大・微生物・感染制御学分野,2国立国際医療研究セ・感染症制御・病原微生物)


Acinetobacter baumannii は薬剤耐性獲得能が高く,近年世界中の医‍療機関で多剤耐性菌が問題となっている.本菌はヒトの皮膚にも常‍在し,抗菌薬のみならず多様な環境に対して高い適応能を示すため,‍医療機器や院内施設に定着し医療関連感染症を引き起こす.A. ‍baumanniiは人工呼吸器関連性肺炎(ventilator-associated pneumonia; VAP)の原因となり,集中治療室入院患者など免疫力が低下した易感染性宿主に感染した場合は致死率も高い.我々は,人工呼吸器に使用される気管チューブに接着しやすい菌株が,患者体内に定着することで VAP を引き起こすのではないかと着想した.そこで,気管内挿管チューブ(メディカルデバイス: MD)の存在下で A. baumannii を培養後,MD に接着した菌を回収し,再度同条件下で培養を繰り返すことで,実験的に MD に対し高度接着能を獲得進化した株を樹立した.本菌は MD への接着だけでなく,バイオフィルム形成能,マウス肺定着能が増強していた.さらに,MD 適応進化株を免疫が正常なマウス気管支に投与すると一過性の肺感染を起こし,死亡することなく回復した.一方で,人工呼吸器が挿管された易感染性の患者を模擬したシクロフォスファミドで処理した免疫不全マウスに投与すると,肺炎を発症した後に全身播種を伴う敗血症を起こし96時間以内に全てのマウスが死亡した.現在,本適応進化株の病原性増強に関与する因子をゲノミクス/プロテオミクス解析で評価している.