[ODP-109/W6-2] Pneumolysin-dependent nasal epithelial barrier dysfunction involved in pneumococcal dissemination
上気道に常在する細菌は血行性に血液脳関門を介して髄膜へ伝播し,細菌性髄膜炎を発症させると認識されている.我々は細菌性髄膜炎が中耳炎や急性副鼻腔炎に合併することに着目し,鼻咽腔に定着する肺炎球菌は,血行性に伝播するだけでなく,嗅神経経路を介して非血行性に脳内へ到達することをマウス感染モデルで明らかにした.本研究では,鼻粘膜上皮バリアの傷害に寄与する細菌因子を同定し,肺炎球菌の脳伝播機構との関連を検証した.
中耳炎由来の肺炎球菌EF3030株(血清型 19F)をマウス(Balb/c, メス, 6週齢)の鼻腔内に感染させた.脳組織ホモジネート中の菌数の測定と感染組織の免疫蛍光染色により,鼻粘膜上皮に定着する肺炎球菌が,嗅神経を介して脳組織へ侵入する現象を認めた.嗅球,大脳,および小脳への肺炎球菌の伝播は,ニューモライシン遺伝子(ply)の欠失により有意に低下したが,ply欠失株へのply の再導入により野生株と同程度にまで回復した.また,組換えニューモライシン(rPly)の経鼻投与により,ply 欠失株の脳伝播能は有意に上昇したが,膜傷害活性を欠失させた rPly を投与した場合,非投与群と同程度であった.野生株感染マウスの鼻腔洗浄液では,非感染群と比較して,細胞間接着分子群の転写を抑制するSnail1 遺伝子の発現上昇と E-カドヘリンの発現低下を認めたが,ply 欠失株感染群での発現量は非感染群と同程度であった.
以上の結果から,肺炎球菌の Ply はSnail1 依存的にE-カドヘリンの転写を抑制することにより鼻粘膜上皮バリアを傷害し,嗅神経経路を介する細菌の非血行性脳組織伝播に寄与することが示唆された.