第95回日本細菌学会総会

講演情報

オンデマンド口頭発表

[ODP22] 5. 病原性-b. 毒素・エフェクター・生理活性物質

[ODP-121/W6-1] A群レンサ球菌の毒素NAD-glycohydrolaseは宿主翻訳機構を阻害する

藤 博貴,野澤 孝志,中川 一路 (京大院・医・微生物感染症)


A群レンサ球菌(Group A Streptococcus;GAS) は,ヒトに感染し,咽頭炎や飛び火を引き起こす病原細菌である.GASは宿主組織内に感染した際に,細胞外で増殖するだけでなく宿主細胞内に侵入することで,長期感染を果たす.細胞内での生存には宿主からの感染防御機構を回避する必要性があり,これまで当研究室は,GASの保有する分泌毒素NAD-glycohydrolase(Nga)がその役割の一端を担うことを明らかにした.例えば,NgaがPIK3C3複合体を介したオートファジーを阻害することやGolgi体断片化を誘導することを明らかにしてきたが,その撹乱に関わる分子メカニズムはいまだに不明なままである.NgaはNADを分解することで,宿主内のNAD/NADHを低下させることが提唱されているが,我々はNgaが上記の現象を引き起こす背景には,NAD分解以外の作用点が存在すると考えた.そこでその分子メカニズムを解明することを目的として,Ngaが相互作用する宿主分子の同定を試みた.蛍光タンパク質mClover3との融合タンパク質としてHeLa細胞に強制的に発現させ,GFP-trapによる免疫沈降およびショットガンプロテオミクスを実施し,相互作用タンパク質候補を同定した.その結果,これまで報告されていないNgaの相互作用タンパク質の候補を取得することができた.候補タンパク質の中には,宿主翻訳系に関与するタンパク質が含まれていたため,Ngaによる宿主翻訳系への影響をPuromycin labeling法を用いて検討したところ,野生株感染時にはピューロマイシンの取り込みが抑えられ(翻訳が阻害され),nga欠損株ではレスキューされたことから,Ngaが宿主翻訳機構を抑制することが示唆された.