[ODP-204] Biological significance of β-lactam carbothioic S-acids mediated by cysteine hydropersulfide
【目的】硫化水素 (H2S)が抗菌剤耐性に寄与することが報告されている.しかしそれらの詳しい機構は未だ明らかになっていない.近年,システインに過剰にイオウが付加したシステインパースルフィド(CysS-SH)が生体内で産生されることが報告された.CysS-SHは酸化型システインであるシスチンとH2Sの反応により生成されることから,H2Sの抗菌剤耐性への寄与はCysS-SHを介したものであることが考えられた.そこで本研究ではCysS-SHの細菌における抗菌剤耐性に与える影響を検討することで,新しい薬剤耐性化機構の解明を目的とした.
【方法】CysS-SHとβラクタム系抗生物質の反応生成物の解析には,高速液体クロマトグラフィーと質量分析計を用いた.またそれら反応産物の抗菌活性はディスク法で検定した.細菌や細菌培養上清からの反応産物の解析には誘導体化後,質量分析計を用いて定量した.
【結果】シスチンとH2Sから生成されるCysS-SHとβラクタム系剤を反応させることで,βラクタム環の開環を伴うカルボチオ酸体(BL-COSH)を形成することを見出した.BL-COSHはCysS-SH特異的に形成され,H2Sやシスチンのみでは形成されない.さらにBL-COSHは抗菌活性を完全に失っていることが分かった.さらに細菌からのBL-COSHの検出を試みたところ,グラム陽性,陰性菌のいずれにおいても,β-lactam系抗菌剤を処理したサンプルの細菌内,培養上清からBL-COSHを検出した.
【考察】細菌のCysS-SHはβ-lactam系抗菌剤と反応することで,抗菌活性を失ったBL-COSHを形成,さらに細胞外へ排出することで,細菌の薬剤耐性に寄与していることが考えられる.