第95回日本細菌学会総会

講演情報

シンポジウム

[S2] シンポジウム2
バクテリアの表層変化と生存戦略

2022年3月29日(火) 09:15 〜 11:45 チャンネル3

コンビーナー:塩見 大輔(立教大学),田岡 東(金沢大学)

[S2-1] 細菌パーシスター化における膜内切断プロテアーゼRsePの役割:生理学的及び構造学的アプローチ

檜作 洋平1,横山 達彦1,三宅 拓也1,小林 達也1,今泉 友希2,高貫 一徳2,大井 里香2,禾 晃和2,秋山 芳展1 (1京大・ウイルス・再生研,2横浜市大・生命医科)

「膜内切断現象」は,特殊な膜内在性酵素を介して膜貫通タンパク質が脂質二重層内部で加水分解されるという現象であり,シグナル分子の切断を介したコレステロール代謝や微生物の病原性発現など,ヒトから細菌に至るまで多様な生体プロセスに関与する.大腸菌膜内切断プロテアーゼであるRsePは,抗σ因子の膜内切断を介して細菌の生存戦略を担う表層ストレス応答の活性化を制御し,膜の品質管理にも関与することが知られている.我々はRsePの新規機能探索を目指して低分子膜タンパク質SMP(small membrane protein)を対象とした基質スクリーニングを行い,複数のSMPがRsePによって切断されうることを見出した.そのうちの一つであるHokタンパク質は,Toxin-Antitoxin systemを構成する内在性トキシンであり,膜中で多量体化してポアを形成することでATPなどの細胞外流出を引き起こす.近年,Hokの発現により休眠状態となった細胞が,抗生物質抵抗性となる「パーシスター化」を示すことが報告されている.そこでRsePによるHokの切断がその機能制御に関与するかを検証した所,Hokの過剰発現によって引き起こされる細胞の生育遅延やATPの細胞外流出が,RsePの共発現により抑制されることが示された.これらの結果は,RsePの新たな生理的役割として,Hokの膜内切断を介して細菌の生存戦略の一つであるパーシスター化の制御に関わる可能性を示唆する.さらに最近,我々は細菌RsePホモログと阻害剤との複合体結晶構造を決定した.この構造に基づいた詳細な生化学的解析により阻害剤の作用機序や基質認識・切断の分子機構の一端を明らかにした.これら最新の知見についても簡単に紹介する.