第95回日本細菌学会総会

講演情報

シンポジウム

[S4] シンポジウム4
生体防御研究の現状と展望

2022年3月30日(水) 09:15 〜 11:45 チャンネル1

コンビーナー:中川 一路(京都大学),金城 雄樹(慈恵医科大学)

共催:日本生体防御学会

[S4-1] 新型コロナウイルスに対する中和抗体と感染増強抗体

荒瀬 尚1,2 (1阪大・微研・免疫化学,2阪大・免疫フロ・免疫化学)

新型コロナウイルス感染症では,一部の感染者のみに肺炎が発症し重症化する.したがって,どの様な因子が重症化に関与しているかを明らかにすることが新型コロナウイルス感染症の病態解明に重要である.ゲノムワイド関連解析からは,宿主の遺伝的素因の関与は小さいことが明らかになった.従って,生活習慣や過去のウイルス感染による抗体産生等の環境要因が新型コロナウイルス感染症の重症化に関与していると考えられる.新型コロナウイルスはエンベロープ分子であるスパイクタンパク質の受容体結合部位(RBD)が宿主細胞受容体であるACE2と結合することにより,宿主細胞膜と膜融合を引き起こして細胞に侵入する.通常,スパイクタンパク質のRBDの多くは閉じた構造をとっているが,RBDが開いた構造をとることでACE2と結合する.そのため,ACE2との結合を阻害するRBDに対する抗体は中和抗体として感染防御に重要な機能を担っている.一方,スパイクタンパク質のN末領域(NTD)の特定の領域に抗体が結合すると,開いた構造のRBDが誘導されてACE2との結合性が高まり,その結果,新型コロナウイルスの感染性が高まることが判明した.新型コロナウイルス感染患者ではNTDに対する感染増強抗体が中和抗体とともに産生され,中和抗体の中和能を低下させることが判明した.また,一部の非感染者でも感染増強抗体や中和抗体を持っている人が認められた.そこで,新型コロナウイルス感染症における中和抗体と感染増強抗体を含めた最近の新型コロナウイルスに対する免疫応答の知見を紹介する.