第95回日本細菌学会総会

講演情報

シンポジウム

[S4] シンポジウム4
生体防御研究の現状と展望

2022年3月30日(水) 09:15 〜 11:45 チャンネル1

コンビーナー:中川 一路(京都大学),金城 雄樹(慈恵医科大学)

共催:日本生体防御学会

[S4-5] 活性酸素と超硫黄分子による生体防御の共進化論

赤池 孝章 (東北大・院・医・環境医学)

システインパースルフィド(CysSSH)に代表される活性硫黄分子種(reactive sulfur species)は,活性酸素(reactive oxygen species)などの従前の活性分子の範疇を超えた分子種,すなわち,超硫黄分子(スパースルフィド, supersulfide)としてエネルギー代謝やレドックスシグナルなど生命活動を支えているだけでなく,生命進化における生体防御応答の普遍的な鍵分子として機能している.我々は超硫黄分子の主要な代謝経路を同定してきた(PNAS, 2014; Nat. Commun., 2017, 2021; Sci. Adv., 2020, 2021).例えば,超硫黄分子は,ミトコンドリアにおいて,酸素分子とともにハイブリッド型の硫黄呼吸を営でいる.さらに,超硫黄分子は,活性酸素と類似した化学的反応性を発揮できる.実際,NADPH oxidase(NOX)やNO合成酵素(NOS)などの電子受容体として主たる感染防御の実行分子として,また,炎症・免疫制御シグナル分子として機能していることが示唆されている(Nat. Commun., in revision).さらに興味あることに,タンパク質のCysSSH側鎖の酸化体は,リン酸化やグルタミン酸側鎖と構造類似性を有しており,リン酸化やグルタミン酸様の細胞シグナルを模倣していることも明らかにされつつある.本講演では,この様な超硫黄分子の生命進化論,すなわち,硫黄と酸素の生命共進化の仕組みを解説することで,これまで全く知られていなかった超硫黄生物学について紹介する.