第95回日本細菌学会総会

講演情報

シンポジウム

[S5] シンポジウム5
レンサ球菌研究の新しい風

2022年3月30日(水) 09:15 〜 11:45 チャンネル3

コンビーナー:小川 道永(国立感染症研究所),野澤 孝志(京都大学)

[S5-1] NanoLucを用いた肺炎球菌の細胞付着・侵入効率を定量化する方法の開発とその応用

小川 道永1,雫石 早矢佳1,2,3,梁 明秀2,明田 幸宏1,大西 真4 (1国立感染研・細菌1,2横市大・医・微生物,3学振特別研究員,4国立感染研)

肺炎球菌はグラム陽性の双球菌で,乳幼児の20-50%,成人の3-5%が鼻咽頭に保菌しているが,ときに致死率の高い侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)を引き起こす.現在,小児用のワクチンが定期接種化されているが,非ワクチン型の血清型株によるIPDや薬剤耐性菌が近年増加し,血清型や抗生剤に依存しない治療法開発が急務である.そこで,肺炎球菌-宿主間相互作用に関する基礎的な知見を治療法開発に活用する「Host-informed therapies (HIT’s)」という次世代型の開発方法が注目されている.飛沫により取り込まれた肺炎球菌は,鼻咽頭上皮細胞から体内に侵入し,最終的には血流に到達し侵襲性感染を起こす.近年,細胞内に侵入した肺炎球菌がオートファジーを誘導し殺菌されることが分かってきたが,その分子機構や宿主-菌間の相互作用については不明な点が多く残されている.
我々は現在までに,肺炎球菌は細胞に侵入後エンドソーム内で膜孔形成毒素Plyを放出しエンドソーム膜に膜孔を形成することでエンドソーム内部のpH低下を抑制しリソソーム酵素による殺菌を回避していること(菌側にとってのベネフィット),さらにその一方でPlyによるエンドソーム損傷は「もろはの剣」であり,その後の感染過程でノンカノニカル,カノニカルという2種類の選択的オートファジーを連続的に誘導してしまうこと(宿主側にとってのベネフィット)がわかってきた.そこで我々は,肺炎球菌にとっての「急所」となる菌の付着から侵入,エンドソーム損傷までを定量化する解析手法を開発し,興味深い結果が得られたので報告する.