[S6-1] Re-activation of lactose hydrolysis in E. coli O121:H19 by excision of insertion sequence
挿入配列(insertion sequence: IS)は転移酵素のみをコードする0.7-2.5 kbの可動性遺伝因子であり,ゲノム内の様々な部位に転移・挿入され,様々な形質の変化を引き起こす.ISはほとんどの細菌種のゲノムから見出されているが,そのレパートリーは菌種・菌株によって大きく異なり,腸管出血性大腸菌(EHEC)の主要血清型では,IS3ファミリーのIS629やIS600が主要IS種である.通常,ISの切り出しは稀にしか起こらないが,EHEC O157:H7などでは,genomic island上のiee遺伝子がコードするIS excision enhancer (IEE)がIS3 ファミリーの切り出しを促進する (Kusumoto, et al., Nat Commun, 2011).我々は,主要non-O157 EHECの一つであるO121:H19(以下,O121)において,乳糖非分解性の分離株の培養中に乳糖分解性のコロニーが出現することに着目し,この現象の遺伝的メカニズムの解明を試みた.その結果,1) lacZ遺伝子へのIS600挿入によってO121菌株が乳糖非分解性となっている,2) 培養中にlacZからIS600が切り出されることによってlacZが再生する,3) lacZからのIS600の切り出しにIEEが関与する,4) IEEによるlacZ遺伝子からのISの切り出しに何らかの形で乳糖が関与する可能性があることを見出した.また,国内外の計442株を用いたO121の系統解析とlacZおよびiee遺伝子の解析を行い,O121の主要系統の大部分は乳糖非分解性であるが,lacZからのIS600の切り出しによって乳糖分解性コロニーが出現する可能性が高いことを見出した.現在は4) の知見に着目し,より詳細なメカニズムの解明を目指して解析を行っており,本発表では,我々がこれまでに得た結果について紹介したい.