第95回日本細菌学会総会

講演情報

シンポジウム

[S6] シンポジウム6
細菌のリバーシブル変異と適応戦略

2022年3月30日(水) 09:15 〜 11:45 チャンネル4

コンビーナー:三室 仁美(大阪大学・大分大学)

[S6-3] マルチプレックスゲノム編集を用いてCampylobacter jejuniの表現型を制御する

山本 章治,伊豫田 淳,大西 真 (感染研・細菌第一)

カンピロバクターはゲノムあたり10から80個の超可変配列を有しており,それらの高頻度な変異を介して莫大な多様性を獲得する.polyG/Cリピートは最も主要な超可変配列であり,細胞分裂当たり10-4から10-3の頻度で欠失・挿入が起こり,リピート数が可逆的に変動する.多くのpolyG/CはORF内に存在しており,リピート数の変動によってフレームのずれが起こり,蛋白質が発現するphase(ON)と発現しないphase(OFF)を交互に生じる.例えば,ゲノムあたり30個のpolyG/Cを持つ株の場合,理論的には230通りのphase variation(PV)の型がつくられる.Campylobacter jejuniのpolyG/Cは菌体表層抗原の修飾遺伝子に多く分布しており,それらの発現のON/OFFによって表層抗原の構造を巧みに変化させ,宿主内外での多様な環境への適応に重要な役割を果たしていると考えられる.しかしながら,理論的に想定される莫大な数のPV型のうち,役割が明らかにされているPV型はごくわずかである.PVによる表現型の変わりやすさと組み合わせ論的な複雑性がこの分野の研究やワクチンの開発を困難にしている.そこで我々はC. jejuniのPVを安定化するためのゲノム編集技術を確立した.リピート数の変動は連続した塩基におけるDNA複製のエラーによって生じるため,自然形質転換能を利用したゲノム編集を行い,リピート配列を中断させることによりその変動をロックする.その結果,遺伝子の発現がONもしくはOFFのどちらかのphaseにロックされ,表現型が安定化する.また,マルチプレックスな系を用いてゲノムワイドにpolyG/Cをロックすることも可能である.本発表では,上記技術の詳細について紹介させて頂きたい.