[S6-5] Agr Phase Variants in Staphylococcus aureus
黄色ブドウ球菌は定着因子,分泌毒素,免疫撹乱因子など多様な病原因子を獲得している.これら病原因子群のマスターレギュレーターが, Agr系である.Agr系は細菌自らが分泌する修飾ペプチド(AIP)を感知して応答するクオラムセンシング系で,細胞密度が高くなったり,ファゴソームに閉じ込められたりした際に活性化する.Agr系は共生・慢性感染の状態から,侵襲性感染の状態にシフトさせる重要な制御系であるが,臨床分離株の多くは,Agr系が変異により機能しなくなっている.これらの変異体は,宿主での生存に有利であると考えられているが,dead-end 変異体,すなわち次の感染症を起こすことなくその系譜を終える運命のものだと考えられてきた.最近我々は,agr変異の中に,可逆的なもの(phase variation:相変異)を見出した.さらに実際,臨床から直接分離したAgr変異株がAgr活性を復帰する例も見出された.Agr相変異株のリバータントが出現しても,AIP濃度は十分上昇せず,Agr系は活性化されない.しかし,Agr相変異株の培養液をマクロファージに貪食させると,ファゴソームに貪食されたものがリバータントであればAgr活性を示すことが確認された.Agr系が制御する病原因子群はファゴソーム内での生存と脱出にも重要であり,また黄色ブドウ球菌は貪食細胞の移動と共に運ばれて異所性の感染を生じる可能性もあることから,Agr相変異は本菌の感染戦略の一つである可能性が示唆された.