第95回日本細菌学会総会

講演情報

共催企業ウェビナー

[SW3] 共催企業ウェビナー3

2022年3月30日(水) 12:00 〜 13:00 チャンネル2

共催:株式会社エスアールエル/H.U.フロンティア株式会社

[SW3] COVID-19流行下のAMR対策 日本の課題

鈴木 里和 (国立感染症研究所薬剤耐性研究センター)

COVID-19の流行初期の2020年5月,Nature Microbiology誌に,この未曽有の新興感染症の流行が過剰な抗菌薬の使用を促し,社会保健インフラを劣化させ,それらが連鎖することで薬剤耐性の状況を悪化させうるとのeditorialが掲載された.一方で,感染対策,特に医療機関におけるそれが強化され,かつ国際交流が減少することにより高所得国ではむしろ薬剤耐性率は改善するとの意見もあった.
では,COVID-19流行中に我が国の薬剤耐性菌の疫学はどうなっただろうか.感染症法に基づく感染症発生動向調査のうち,COVID-19同様に市中で広まる呼吸器感染症であるペニシリン耐性肺炎球菌感染症は過去10年間で最も低い水準のまま推移している.海外からの持ち込みが感染源として重要な多剤耐性アシネトバクター感染症の報告も,国際交流の減少を反映してか,これまで30例前後/年であったのが2021年は5例と著減した.一方,COVID-19とは伝播経路を異にするバンコマイシン耐性腸球菌感染症の報告は,2010年代は約50-80例で推移していたのが,2020年に過去最多の136例と急増した.その背景には飛沫感染に偏った対策の強化や,保健所業務が逼迫したことで,医療法に基づく定例の立入検査が見送られたり,地域での薬剤耐性菌対策に関する事業や検討会が延期され続けたりしたことがあったと思われる.新興感染症流行下であっても,当然ながら薬剤耐性菌もふくめた既存の病原体は存在し,伝播し,感染症を引き起こしている.どのような状況下でも基本的な感染症対策が維持可能な医療保健体制の構築が必要であろう.