第95回日本細菌学会総会

講演情報

ワークショップ

[W7] ワークショップ7
事例から考える感染症

2022年3月31日(木) 13:05 〜 15:05 チャンネル1

コンビーナー:大岡 唯祐(鹿児島大学),小西 典子(東京都健康安全研究センター)

[W7-1] 埼玉県で発生したastA保有大腸菌O7:H4を原因とする大規模食中毒事例

島田 慎一 (埼玉県衛生研究所・食品微生物担当)

既知の病原マーカーとして,astA(腸管凝集付着性大腸菌耐熱性エンテロトキシン1をコード)のみを保有する下痢原性大腸菌による食中毒は,1996年以降各地で報告がある.埼玉県でも同様の下痢原性大腸菌による大規模食中毒が発生した.
2020年6月28日,A市内の複数の小中学校の児童生徒が食中毒様症状を呈しているとの情報を管轄保健所が探知し調査を開始した.発症者は市内小中学校の児童生徒及び教員等で,共通して市内の営業者が製造した給食を喫食していた(同市は全小中学校の給食を当該営業者に委託)ため,給食が原因の食中毒が疑われた.
埼玉県衛生研究所で検査を実施し,発症者便19検体中14検体からastA保有大腸菌O7:H4 を検出した.また検食27検体中,6月26日提供の海藻サラダからもastA保有大腸菌O7:H4を検出した.以上の結果により保健所は,海藻サラダを原因食品とする食中毒と判断した.最終的には喫食者6,762人中発症者は2,958人であった.
海藻サラダの食材の「海藻ミックス」(乾燥品)の加工業者による自主検査で,原料の1つである「赤杉のり」から107/gの大腸菌群が検出されたことが判明した.そこで加工業者を所管するB県へ赤杉のりの大腸菌検査を依頼したところ,astA保有大腸菌O7:H4が検出された.当所でPFGEを実施し,赤杉のり,発症者及び海藻サラダ由来の各菌株の泳動パターン一致を確認した.さらに国立感染症研究所細菌第一部で実施したNGS解析では,赤杉のり,発症者及び海藻サラダ由来の各菌株のSNPは最大で1か所であり,同一クローンであると考えられた.
本事例は,発症者が約3000人と大規模であり,O7:H4という稀な血清型のastA保有大腸菌が原因,また原因食品が特定された等の点において貴重な事例である.