第95回日本細菌学会総会

講演情報

ワークショップ

[W7] ワークショップ7
事例から考える感染症

2022年3月31日(木) 13:05 〜 15:05 チャンネル1

コンビーナー:大岡 唯祐(鹿児島大学),小西 典子(東京都健康安全研究センター)

[W7-2] 関東地方で分離されたSalmonella Chesterの全ゲノムシークエンスを用いた解析について

安藤 直史 (千葉県衛研)

日本の関東地方において,2014年から2016年にかけて,Salmonella enterica serovar Chesterによる感染症の一時的増加がみられた.これと同時期に,欧州各国において,単一のクローナルグループに属する S. Chesterによる感染症が繰り返し発生していた.近年の研究において,欧州における感染症事例は,モロッコへの旅行者が現地にて海産物を喫食したことが原因であろう,と報告されている.日本はモロッコから海産物を多く輸入していることから,関東地方における S. Chester感染症の一時的増加は,モロッコからの輸入海産物との関連があると予想した.そこで本研究では,関東地方と欧州の S. Chester感染症の関連性を調べることを目的とした.
最初に,2014年~2016年の間に関東地方でヒトから分離された47株の S. Chesterを収集し,全ゲノムシークエンスを行った.また,欧州の事例由来の S Chester 58株のシークエンスデータを収集した.関東地方及び欧州株のシークエンスデータを S. Chesterレファレンス株のゲノム配列へマッピングし,検出したSNPを用いてクラスター解析を行ったところ,関東地方と欧州の分離株はそれぞれ異なるクラスターに分類された.次に,集団遺伝学解析を行い,各クラスターは遺伝的多様性が異なり,さらに関東地方由来の菌株は,欧州由来のクローナルグループに含まれない1つのクローンから発生していたことが示された.
以上より,関東地方で一時的に増加した S. Chester感染症は,欧州における感染症事例との関連性が無いことが明らかになった.また,今回の研究の利点として,比較する菌株を移動させず,Webよりシークエンスデータを収集し,解析する事が可能であった.