第95回日本細菌学会総会

講演情報

学会企画 細菌学若手コロッセウム

[WCB] 【共催】細菌学若手コロッセウム―未来を拓く若手細菌学研究―

2022年3月29日(火) 14:30 〜 19:30 チャンネル2

コンビーナー:宮腰 昌利(筑波大学),一色 理乃(早稲田大学),柴田 敏史(鳥取大学),佐藤 豊孝(北海道大学),福田 昭(酪農学園大学)

[WCB-3] 分業性を考慮した微生物増殖性の理論解析

熊倉 大騎1,山口 諒2,原 朱音2,中岡 慎治2 (1北大院・生命科学,2北大院・先端生命)

微生物の増殖性を推定する際,Monodの式に基づいて基質濃度から細胞密度を計算していた.Monodの式では増殖の初期状態を記述することに長けているが,増殖の後半での微生物の状態は記述することができなかった.そのため,本来であれば実験的に確認される増殖期中の細分化された時期が不明瞭になっている.加えて,基質の消費に伴って微生物の増殖と生成物の蓄積が起きているため,微生物の増殖性には微生物自身の過密性や基質の消費具合,生成物の蓄積具合に依存することが考えられる.また1細胞レベルでのRNA-seq(scRNA-seq)解析から同じ培地・培養時間であっても微生物個体によって発現状態に異質性が存在することが分かってきた.
そこで,本研究では代謝で得られたエネルギーを微生物がさまざまな条件に応じて使い分けるとして数理モデルを提案する.提案されたモデルは,微生物が獲得したエネルギーを細胞分裂と代謝物の分解に振り分けると仮定した.数値解析の結果から,Monodの式では再現できなかった定常期以降の微生物の振る舞いを再現することができた.そして,増殖速度とその変化量から微生物の増殖段階を解析的に分別可能になった.実データ検証として硝酸培地下でのPseudomonas balearica Strain RAD-17のデータから,増殖曲線・硝酸濃度・亜硝酸濃度のパラメータ推定を行った.その結果,本菌は迅速な亜硝酸イオン分解を行っており,細菌が緩やかに死滅していることがわかった.
本研究を通して,微生物1個体レベルでの代謝動態研究の発展が期待される.