会長挨拶

第49回日本熱傷学会・学術集会
会長 櫻井裕之
東京女子医科大学
形成外科学教室 教授
この度、東京女子医科大学形成外科学教室は、第49回日本熱傷学会 総会・学術集会を主管するにあたり、会員及び関係の皆様に厚く御礼申し上げます。当教室は、初代教授平山峻先生が昭和60年に第11回本学会を、前教授野﨑幹弘先生が平成9年に第23回本学会を主催しております。昭和、平成、令和の3時代に亘り本学会を主催できることを、教室員・同門会員とともに大変光栄なことと感じております。
本学会設立当時の日本は、既に経済大国として発展を遂げていました。一般家庭に内風呂、湯沸かし器、暖房器具、調理用器具などが普及し、移動手段としてガソリン車が当たり前になり、職場では生産技術が急速に高まった時代は、一方で生活環境・労働環境において重症熱傷患者の発生リスクを高めました。重症熱傷は、およそ外傷の中でも最も侵襲が高度で、大量の物的・人的医療資源の投入を必要とします。学術団体である本学会は、熱傷の病態生理、創傷治癒、再生医療など基礎研究と、ライフサポート、感染制御、局所管理、創閉鎖といった熱傷に関連する諸問題に対する臨床研究の蓄積により、熱傷症例の救命率向上に大きく寄与しました。加えて、看護師、理学療法士、栄養士、薬剤師、臨床心理士などの多職種の方々がチーム医療として熱傷治療に参画することにより、救命率のみでなくその後の生活の質(QOL)の改善にも務めてまいりました。
平成の時代を経て、国民の意識は利便性・生産性一辺倒から安定・持続可能な社会を求める方向へと徐々に変化し、安全性を重視した社会システムの導入によりわが国における重症熱傷の発生頻度は激減しました。そのため令和の時代においては、突発的な災害・事故による多数傷病者発生時に対応するための体制整備が新たな課題としてクローズアップされています。また、過去に受傷した重度熱傷による後遺症により、社会から閉ざされた生活を余儀なくされている方も散見されます。令和の時代は、近年開発されたさまざまな分野での技術革新が統合され、熱傷患者の命と生活が救われ、真の意味での治療成績向上に繋がる。そんな時代がもうすぐそこまで来ていることを実感します。そこで今回の学会のテーマは、”On the Horizon”とさせていただきました。
世界に目を向ければ、未だインフラ整備の遅れから多数の熱傷患者治療が発生し、国民の健康福祉における重要課題としている国々もあります。そういった意味でも、前回本学会総会・学術集会において佐々木淳一会長が打ち立てた”Japanese Total Burn Care”を希求することこそ、本学会の国際貢献にも繋がると認識しております。
教室員一同で実りある総会開催に向けて準備を進めて参ります。本学会員ならびに熱傷診療に興味を有する多くの方々が、三時代を越えて取り組んできた熱傷治療の進歩に関して、熱い議論が交わされることを期待致しております。