第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

教育講演

[EL12] 教育講演12

2019年3月2日(土) 10:15 〜 10:55 第3会場 (国立京都国際会館1F アネックスホール1)

座長:森﨑 浩(慶應義塾大学医学部麻酔学教室)

[EL12] ICUで役立つPoint-of-care超音波

畠 二郎 (川崎医科大学 検査診断学)

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1985年自治医科大学医学部卒広島県内の僻地中核病院ならびに診療所勤務の後、2003年より川崎医科大学検査診断学講師、2006年より現職。専門分野は超音波診断学。日本超音波医学会理事、日本消化器病学会評議員、日本消化器内視鏡学会評議員。
ICUの症例は重篤であるが故に厳密な病態の把握が必要とされる一方で、患者本人からは十分な情報を得ることは容易でなく、さらに種々のモニタリングあるいは治療機器に接続されており移動が困難であるという特徴を有する。一方超音波は簡便にベッドサイドで施行可能であり、診療に有用な多くの情報が得られる優れたツールであることが再認識され、近年point-of-care検査(以下POCUS)としての超音波が注目されている。本来POCUSとは何らかの病態に対する効率的な診療戦略のためのトリアージ的な検査としての性格を有し、現在FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)やRUSH(Rapid Ultrasound in SHock in the evaluation of the critically ill)をはじめとして様々な病態に対し多数のプロトコールが提唱されている。本講演においては特定のプロトコールを論ずるのではなく、「気になるところにちょっとプローブを当ててみる」ことにより、多くの情報が得られることを実際の症例を供覧しながらご紹介したい。超音波専門医以外の医師にとって超音波はややハードルが高いが、系統的に臓器を描出するのではなく関心領域だけを観察するのであれば時間もかからず走査も容易である。以下にPOCUSの便利な使用法の例を示す。眼底:視神経束に生じた浮腫を評価することで、脳圧亢進の状態ならびにその推移を知ることができるため、脳浮腫の診断やそのモニタリングが可能である。肺:正常な肺にみられるAラインとは異なり、間質の肥厚により生ずるBラインは肺の間質性変化や心不全を反映したサインであり、その検出や経過観察に役立つ。また気胸の診断能も高いことが知られている。心臓:言うまでもなく超音波の中心的な対象臓器であり、ちょい当てのエコーでも心室の動きをみることは心機能や輸液状態の把握に有用である。下大静脈:同様に下大静脈の径や呼吸性変動の程度は心機能の評価や輸液管理上有用な情報を提供する。肝胆道系:治療経過中の肝逸脱酵素上昇はしばしば経験されるが、特に胆道系酵素上昇の場合に胆汁うっ滞の部位を知ることができる。腎尿路系:尿道カテーテル留置におけるガイドはもちろん、腎機能低下の原因の鑑別も可能である。消化管:腹部膨満の原因としての腸管拡張の有無、腸管蠕動の評価などが可能であり、POCUSからはやや外れるが偽膜性腸炎の診断やNOMI(non-occlusive mesenteric ischemia)の診断もベッドサイドで可能である。腹腔内:腹水や膿瘍、血腫などの有無とその性状を知ることができ、またその穿刺ガイドとしても必須である。体壁:筋損傷や肋骨骨折の診断も容易であり、ICU領域においても人工呼吸下のバッキングなどでこのような病態を経験することがある。血管系:動静脈瘤はもとより血管炎や血栓の診断にも有用である。 このようにPOCUSはICUにおいても強力な診療ツールであり、今後より一層活用されれることが期待される。