第46回日本集中治療医学会学術集会

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教育講演

[EL17] 教育講演17

Sat. Mar 2, 2019 3:40 PM - 4:20 PM 第3会場 (国立京都国際会館1F アネックスホール1)

座長:川股 知之(公立大学法人和歌山県立医科大学麻酔科学教室)

[EL17] 身体的苦痛症状の緩和 〜痛みと呼吸困難の緩和ケアを中心に〜

上野 博司 (京都府立医科大学附属病院 疼痛緩和医療部)

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京都府立医科大学附属病院 疼痛緩和医療部 副部長
京都府立医科大学 麻酔科学教室 准教授
京都府立医科大学附属病院にて、主に緩和ケア病棟、緩和医療、ペインクリニックを担当。急性期疼痛、慢性疼痛、癌性疼痛の管理に従事。
日本麻酔科学会専門医・指導医
日本ペインクリニック学会専門医
日本緩和医療学会暫定指導医

(略歴)
平成9年 京都府立医科大学卒業
     京都府立医科大学附属病院麻酔科
平成12年 京都府立医科大学大学院
平成16年 京都府立与謝の海病院麻酔科 副医長
平成19年 京都府立医科大学麻酔科学教室 助教
      京都府立医科大学附属病院疼痛緩和医療部 副部長
平成25年 アメリカ合衆国マサチューセッツ総合病院へ留学
平成25年 京都府立医科大学疼痛緩和医療学教室 学内講師
平成27年 同 講師
平成29年 同 准教授
平成30年9月 京都府立医科大学麻酔科学教室 准教授

(所属学会)
日本麻酔科学会
日本臨床麻酔学会
日本ペインクリニック学会
日本緩和医療学会(理事、代議員)
日本区域麻酔学会(評議員)
日本レーザー治療学会
本邦では、2007年に「がん対策基本法」が施行され、それを受けて策定された「がん対策推進基本計画」で緩和ケアが推進されるようになった。計画が改訂される中で「治療の初期段階からの緩和ケア」、「がんと診断されたときからの緩和ケア」が求められるようになってきた。また、がん治療の進歩によって生存期間が長期化した現在では、遷延する苦痛を緩和し、「がんとの共生」を目指すことが目標となってきている。
 一方、2002年にWHOは、緩和ケアを「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。」と定義している。ここで注目すべきは、適応を緩和ケアの対象疾患をがんに限定せず、生命を脅かす病としていること、対象を患者本人だけでなく家族にも広げていることである。こうした流れを受けて、わが国でも行政の方針において、非がん疾患への緩和ケアの拡充が求められており、慢性心不全、慢性呼吸不全、神経難病などへの緩和ケアが徐々に推進されつつある。
 緩和ケア領域で扱う身体的苦痛症状の代表的なものは痛みであるが、痛み以外にも、呼吸困難、全身倦怠感、便秘や悪心・嘔吐といった消化器症状も頻度の高い症状である。痛みや呼吸困難は主観的感覚であり、定量的に評価をすることは難しい。また、せん妄、認知機能低下、意識レベルの低下などで苦痛症状をうまく表出することができないケースも多い。このため、医療者側から積極的にスクリーニングやアセスメントを行って、症状を拾い上げることが必要となる。それぞれの症状に対しては、オピオイド鎮痛薬を中心とした薬物療法、非薬物療法としては外科的処置、放射線照射、インターベンション、そしてケアなどの多角的なアプローチを組み合わせて集学的な症状コントロールを行うことが理想的である。そして、症状評価ツールなどを使って症状コントロールの状況を継続的に把握することが重要である。また、終末期には、様々な方法でも苦痛症状のコントロールが困難な場合には、苦痛緩和のために持続的鎮静を考慮する。
 集中治療領域は、回復を目標とするという点では緩和ケアの現場とは異なるが、常に生命を脅かす病に直面した、痛みなどの強い苦痛を持った患者を扱うという点では共通した部分も多くある。緩和ケアの考え方や手法の多くは、集中治療においても適応できる可能性があると考えている。本講演では、痛みと呼吸困難を中心に、緩和ケア領域での身体的苦痛緩和の考え方とその実際について概説する。苦痛症状のあるすべての患者の診療の一助となれば幸いである。