[EL26] 心臓大血管手術における術後急性腎障害:溶血とハプトグロビン投与を再考する
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1999 年岡山大学医学部附属病院 麻酔科蘇生科
2000 年岡山労災病院 麻酔科
2002 年香川県立中央病院 麻酔科
2004 年Austin Medical Center
2005 年岡山大学医学部・歯学部附属病院 集中治療部
2012 年国立がん研究センター中央病院 麻酔・集中治療科
2013 年岡山大学病院 集中治療部
2014 年神戸大学附属病院 麻酔科
心臓大血管手術後における急性腎障害(AKI)の頻度は10-40%と報告されており、敗血症に次ぐAKI発生の主要因の一つと考えられている。心臓大血管手術後のAKIの発生は、他の合併症発生率の上昇や生存率低下と関連し長期予後悪化の一因となりうるため、その予防が重要と考えられてきた。過去の研究において、年齢、性別、術前合併症などのリスク因子が報告されているが、そのリスク因子の中で予防介入が可能なものは少ない。 人工心肺を要する心臓大血管手術患者では、人工心肺回路内および血管内のずり応力による血球破壊や、自己血回収装置の使用や貯蔵赤血球輸血に伴う赤血球破壊などにより溶血が生じる。溶血によって生じた遊離ヘモグロビンはハプトグロビンと結合し代謝される。ハプトグロビンが消費されて遊離ヘモグロビン濃度が増加すると、過剰な遊離ヘモグロビンは、血管拡張作用をもつ一酸化窒素(NO)と結合し、メトヘモグロビンとなって尿細管を閉塞させうる。また、血中NO活性が低下すると、腎循環などの微小循環障害が生じうる。腎尿細管上皮内で遊離ヘモグロビンから生じるヘムは酸化ストレスの増加に関与することが知られている。これらの機序により、心臓大血管手術では、術中に生じた溶血が術後腎機能障害に関与している可能性が示唆されている 血中遊離ヘモグロビンの濃度は、人工心肺離脱後から集中治療室入室時にかけてピークを迎え、翌日朝までに減少して正常化する。溶血による臓器障害の予防法としてハプトグロビン製剤の投与行う施設も存在するが、血中ハプトグロビンを増加させることで血中遊離ヘモグロビンを減少させ、腎機能障害を緩和しAKIを予防できる可能性があるが、その有効性を検討した報告は数少なく、未だ根拠をもってハプトグロビン製剤を投与するに至っていない。本講演は、心臓大血管手術における急性腎障害の発生機序の一つとして溶血を中心に概説し、心臓大血管手術患者における周術期集中治療におけるハプトグロビン投与の是非と根拠を再考する。