第46回日本集中治療医学会学術集会

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教育講演

[EL28] 教育講演28

Sun. Mar 3, 2019 9:30 AM - 10:10 AM 第6会場 (国立京都国際会館1F スワン)

座長:貝沼 関志(稲沢市民病院麻酔科)

[EL28] 心房細動:何を知っておくべきか?

山下 武志 (心臓血管研究所)

オンデマンド配信】

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昭和61年6月 東京大学医学部附属病院内科研修医
昭和63年6月 東京大学医学部附属病院第二内科入局
平成 6年4月 大阪大学医学部第二薬理学講座
平成10年5月 東京大学医学部附属病院循環器内科助手
平成12年4月 (財)心臓血管研究所
平成23年6月 (財)心臓血管研究所所長兼付属病院長
平成26年4月 (公財)心臓血管研究所所長
・CVI ARO Chairman日本内科学会(内科認定医)、日本循環器学会(認定専門医、関東甲信越地方会評議員)、日本心臓病学会(特別正会員、評議員)、日本不整脈心電学会(認定専門医、理事)
 心房細動はきわめてなじみ深い、そしてもっとも古くから知られていると言ってよい不整脈である。心房細動の心電図は医学生にとってもきわめてポピュラーであるが、臨床医となればその存在はむしろ稀薄化し、基礎心疾患のない孤立性心房細動では「ジギタリスとアスピリンを処方しておけばとりたてて問題とならない」という理解で事足りた時代が長かった。しかし、21世紀とともに全世界的に高齢化が問題視されると同時に、にわかに心房細動が「common disease」の一つとして注目されはじめた。そして、現在標準化された心房細動治療は、ほぼここ10数年の間に行われた疫学研究や大規模臨床研究により大きく変革している。1990年代より心房細動に異なるトレンドが生じたが、これには三つの要因がある:(1)医療全体に訪れたトレンド、(2)心房細動自身に内在する変化、(3)心房細動治療方法における変化である。(1)医療全体に訪れた潮流とその影響 この時期に医療全体を大きく揺るがしたトレンドは歴史的なEBMである。医療ないし医学教育は、その古い歴史と伝統に支えられてきたが、歴史と伝統は必ずしもいつも正しいわけではない。それは、時代が変わり、生活習慣が変わり、平均寿命が変わり、医療のmodalityが変われば当然である。心房細動患者が爆発的に増加していること、心房細動患者にとって脳卒中の予防が不可避であること、そして心房細動患者の生命予後は多様であることが、いくつも大規模臨床試験を要求した。(2)心房細動に内在した本質的な変化 社会の高齢化が極めて早いスピードで訪れ、高齢者の心房細動患者が爆発的に増加した。しかし、心房細動罹患率が増加したのは、高齢者ばかりでない。驚くことに、若年者においても増加している。これは、おそらく生活習慣病の増加と密接に結びついている。さらに、無症候性心房細動が予想以上に多いことも判明した。症状のない心房細動発作はその把握すら難しい。心房細動と生活習慣病の密接な関係、心房細動の無症候化は、将来の心房細動罹患率推定すら困難にしている。(3)心房細動治療方法の変化 2010年以降、心房細動にカテーテルアブレーションと複数の新規抗凝固薬が爆発的に用いられるようになっている。これらの新しい治療の適応は、病院・医師により多様性に富むというのが実際である。加えてこのような新しい治療方法が、患者の予後をどのように変化させているのかという情報にはいまだ十分とはいえない。 孤立性心房細動、ジギタリス、アスピリンという三つの用語で事足りた心房細動の時代から、生活習慣病、無症候化、爆発的増加、カテーテルアブレーション、新規抗凝固薬という異なる用語が中心になった心房細動をあらためて考えていただければ幸いである。