第46回日本集中治療医学会学術集会

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教育講演セッション

[ELS1] 教育講演セッション1(ARDS診療ガイドライン作成委員会企画) ARDS診療ガイドラインの展望 リレートーク

Fri. Mar 1, 2019 11:20 AM - 12:20 PM 第19会場 (グランドプリンスホテル京都B2F プリンスホール2)

座長:倉橋 清泰(国際医療福祉大学医学部 麻酔・集中治療医学講座)

[ELS1-3] 次世代に向けた人工呼吸管理の展望

大下 慎一郎 (広島大学大学院 救急集中治療医学)

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1998年広島大学医学部卒
2006年博士号(医学)取得,ドイツ・エッセン大学・呼吸器センター留学
2008年広島大学病院呼吸器内科助教
2009年同集中治療部助教
2014年同高度救命救急センター講師
2017年広島大学大学院救急集中治療医学准教授
日本集中治療医学会専門医・評議員
日本救急医学会専門医
日本呼吸療法医学会専門医・代議員
日本呼吸器学会専門医・指導医・代議員
専門分野は,集中治療医学,救急医学,呼吸器病学
現在,急性呼吸不全,間質性肺炎,ECMOの研究に従事.
骨折や皮膚創部は,創傷が改善するまで安静に保つのが原則である.これと同様に,肺胞上皮傷害をきたしているARDS肺を安静に保つことも,適切な治癒へ肺を導くために重要なことである.このためARDS診療ガイドライン2016では,適切な人工呼吸管理として肺保護換気法(一回換気量とプラトー圧の制限,高めの呼気終末陽圧(PEEP))を推奨した.しかし,一回換気量6-8 mL/kg,プラトー圧 30 cmH2O以下だけを守れば本当に最も肺保護的なのかは,いまだ不明である.本講演では主に以下の内容について解説する.
1.一回換気量は6-8 mL/kgよりも小さくするべきか?
2.高めPEEPの具体値はどうやって決めるのか?
3.人工呼吸モードは何を使えば良いのか?
4.肺胞リクルートメントはするべきか?
5.自発呼吸温存・早期離床はするべきか?
完全な肺保護換気を行うためには,肺の動きを完全に止めるのが理想的である.しかしそれでは呼吸ができないため,ある程度は呼吸を維持する必要がある.一回換気量6 mL/kgよりも3 mL/kgで管理した方が血中IL-6濃度低下するという報告や,駆動圧を小さくするほど院内死亡率が低下するという報告があることから,肺保護効果を高めるためには一回換気量を6 mL/kgよりも小さする方が良い可能性がある.
経肺圧は,気道内圧から胸腔内圧(食道内圧)を差し引いた値で表され,肺胞上皮にかかる真の圧に近いと言える.このため,ARDSネットワークが提案しているPEEP-FIO2テーブルよりも肺の病態や患者の体位をより鋭敏に反映し,より正確なPEEP設定が可能になると考えられる.
人工呼吸モードは,呼吸仕事量や横隔膜運動など,より呼吸生理学的な指標を利用したモードが重要性を増している.気道抵抗や肺・胸郭コンプライアンスから算出される呼吸仕事量を最小限に抑えるよう換気回数自動調整する適応補助換気(ASV)・支持圧を自動調整する比例補助換気(PAV),横隔膜筋電位を用いて呼吸同調率を高める神経調整補助換気(NAVA)等の有用性が期待される.
自発呼吸温存・早期離床は,換気血流不均等やICU関連筋力低下(ICU-acquired weakness)を防ぐ上で重要である.その一方で,体幹や呼吸補助筋を積極的に動かすことは肺保護換気法にマイナスに働く可能性もある.病理学的検討の結果,肺胞上皮傷害の重症度によって,自発呼吸が肺胞に与える影響が異なることが明らかになった.今後は,重症度に応じたリハビリ開始基準設定が重要と言える.
呼吸生理学・肺病理学の進歩により,より良い人工呼吸管理を行うためのヒントが明らかになりつつある.これらの情報を最大限に活用し,次世代の呼吸管理法を築いていくことが重要である.