[ELS3-2] ECMOの基礎2─ECMOのエビデンス・挑戦・未来
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1998年広島大学医学部卒
2006年博士号(医学)取得,ドイツ・エッセン大学・呼吸器センター留学
2008年広島大学病院呼吸器内科助教
2009年同集中治療部助教
2014年同高度救命救急センター講師
2017年広島大学大学院救急集中治療医学准教授
日本集中治療医学会専門医・評議員
日本救急医学会専門医
日本呼吸療法医学会専門医・代議員
日本呼吸器学会専門医・指導医・代議員
専門分野は,集中治療医学,救急医学,呼吸器病学
現在,急性呼吸不全,間質性肺炎,ECMOの研究に従事.
本講演では,成人のRespiratory ECMO管理における最新のエビデンスをレビューするとともに,Respiratory ECMOにおける新しい取り組み,今後の課題について解説していく.具体的には,以下の3点について述べる.
1.最新のエビデンス (日本のH1N1インフルエンザ,CESAR・EOLIA studyの解釈)
2.特殊な疾患の管理(外傷,敗血症,間質性肺炎)
3.今後の課題(新しいデバイス,モバイルECMO,集約化)
2009年H1N1インフルエンザ・パンデミックにおけるECMOを用いた治療成績は,欧米諸国で60-80%の生存率を示したにも関わらず,日本では36%という結果に終わった.この原因の一つは教育・経験不足とデバイスにあると考え,全国の施設で改善が行われた.2016年に再び全国調査を行った結果,APACHE IIスコア,予測死亡率は2009年と同等だったにも関わらず,60日生存率は36%から86%まで改善した.使用したECMO機種は大きく変化し,1回路の使用期間は4.0日から8.5日へ延長した.前向き研究ではないものの,この結果は日本のECMOが世界レベルに到達したことを示唆する重要な知見である.EOLIA studyはARDSにおけるECMOの有用性を評価したランダム化比較試験(RCT)である.同様の研究にCESAR trialがあるが,EOLIAでは多施設参加,ECMO群のECMO実使用率向上,対照群の治療プロトコル化が行われた点で優れている.結果は,60日生存率で有意差を認めないというものであったが,クロスオーバー試験のため対照群の28%でECMOが使用された点,サンプルサイズが不十分だった点など結果解釈に注意を要する.
従来は適応と考えられていなかった疾患においても,ECMO適用の挑戦が始まっている.外傷では5-10%にARDSが合併し,とくに外傷性脳損傷ではARDS合併リスクが20-30%に上昇する.しかし出血合併症の懸念から,外傷にECMOを行うのは敬遠されてきた.いまだ大規模RCTは存在しないものの,外傷におけるECMOの治療成績は生存率50-80%という報告があり有用性が期待される.敗血症では,新生児・小児におけるECMOの有用性はすでに報告が多い.しかし成人敗血症においてはECMOの有効性は確立しておらず,死亡率30-80%と幅広い.間質性肺炎急性増悪は日本人に多く発症するのが特徴である.肺移植を前提としたECMO以外は有用性が乏しいという報告もあるが,我々の施設ではECMOによる生存率改善を認めている.
今後の課題としては,ECMOの安全性・有効性のさらなる向上が挙げられる.ダブルルーメン・カニューラ,搬送用小型ECMOなど,新しいデバイスの普及も重要である.良質な知識・経験・技術・デバイスが合わされば,ECMOの有用性はさらに飛躍すると期待される.
1.最新のエビデンス (日本のH1N1インフルエンザ,CESAR・EOLIA studyの解釈)
2.特殊な疾患の管理(外傷,敗血症,間質性肺炎)
3.今後の課題(新しいデバイス,モバイルECMO,集約化)
2009年H1N1インフルエンザ・パンデミックにおけるECMOを用いた治療成績は,欧米諸国で60-80%の生存率を示したにも関わらず,日本では36%という結果に終わった.この原因の一つは教育・経験不足とデバイスにあると考え,全国の施設で改善が行われた.2016年に再び全国調査を行った結果,APACHE IIスコア,予測死亡率は2009年と同等だったにも関わらず,60日生存率は36%から86%まで改善した.使用したECMO機種は大きく変化し,1回路の使用期間は4.0日から8.5日へ延長した.前向き研究ではないものの,この結果は日本のECMOが世界レベルに到達したことを示唆する重要な知見である.EOLIA studyはARDSにおけるECMOの有用性を評価したランダム化比較試験(RCT)である.同様の研究にCESAR trialがあるが,EOLIAでは多施設参加,ECMO群のECMO実使用率向上,対照群の治療プロトコル化が行われた点で優れている.結果は,60日生存率で有意差を認めないというものであったが,クロスオーバー試験のため対照群の28%でECMOが使用された点,サンプルサイズが不十分だった点など結果解釈に注意を要する.
従来は適応と考えられていなかった疾患においても,ECMO適用の挑戦が始まっている.外傷では5-10%にARDSが合併し,とくに外傷性脳損傷ではARDS合併リスクが20-30%に上昇する.しかし出血合併症の懸念から,外傷にECMOを行うのは敬遠されてきた.いまだ大規模RCTは存在しないものの,外傷におけるECMOの治療成績は生存率50-80%という報告があり有用性が期待される.敗血症では,新生児・小児におけるECMOの有用性はすでに報告が多い.しかし成人敗血症においてはECMOの有効性は確立しておらず,死亡率30-80%と幅広い.間質性肺炎急性増悪は日本人に多く発症するのが特徴である.肺移植を前提としたECMO以外は有用性が乏しいという報告もあるが,我々の施設ではECMOによる生存率改善を認めている.
今後の課題としては,ECMOの安全性・有効性のさらなる向上が挙げられる.ダブルルーメン・カニューラ,搬送用小型ECMOなど,新しいデバイスの普及も重要である.良質な知識・経験・技術・デバイスが合わされば,ECMOの有用性はさらに飛躍すると期待される.