第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

教育セミナー(イブニング)

[ES3] 教育セミナー(イブニング)3

ICU-AWの予防のための早期リハビリテーションと栄養管理

2019年3月2日(土) 17:00 〜 18:30 第2会場 (国立京都国際会館2F Room A)

座長:西田 修(藤田保健衛生大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座)

共催:ネスレ日本株式会社ネスレヘルスサイエンスカンパニー

[ES3-2] 早期離床リハビリテーションと栄養管理

飯田 有輝 (厚生連海南病院 リハビリテーション科)

 集中治療の発展により重症患者の生存率は飛躍的に向上したが、その半面、ICUを退室しても深刻な全身性筋力低下を呈する。このような筋力低下を主体とした身体機能障害は、ICU-acquired weakness(ICU-AW)と呼ばれる。ICU-AWの合併は、長期に人工呼吸管理が行われた患者の半数にあり、重症患者では高い罹患率を認める。ICU-AWは長期にわたって日常生活自立度の低下や社会活動の狭小化、さらに健康関連QOLの低下を招くことが示され、その予防策は集中治療領域でも主関心事である。
 ICU-AWの発生には全身性炎症による異化作用亢進が関係する。機序として、多臓器不全、安静臥床、高血糖、ステロイドや筋弛緩剤の使用などのリスク因子に、低栄養などが複合的に作用することで、全身性に蛋白異化が亢進し、筋組織が破壊される。筋蛋白分解のプロセスからみると、疾病発症早期の全身炎症や免疫不全を背景としたearly phaseと、その後慢性的に異化状態が遷延するlate phaseの2つの相に分けられる。これらの病態を助長する因子には、不要な不活動や栄養不足が共通しており、対策を講じる必要がある。
 早期離床リハビリテーションは、身体機能の改善や日常生活自立、QOLの改善を促すことが示されており、集中治療領域において標準的介入として位置付けられている。しかし集中治療室の重症患者は病態が不安定で、不用意な離床や運動負荷で状態が悪化する可能性がある。このため、リハビリテーションの開始にはある一定の基準が必要であるが、栄養状態や栄養管理による明確な基準は示されていない。経腸栄養の持続投与中は姿勢変化など運動により栄養剤の逆流、誤嚥が懸念されるため、栄養投与の中断が望ましいが、Treitz靱帯を超えて挿入された経空腸栄養管理では、栄養剤の逆流もほぼなく、体位ドレナージも含めベッド上での積極的運動は可能である。栄養剤を緩徐な投与速度から開始し、逆流がなく吸収状態が良好であれば、栄養剤の増量に合わせて運動負荷も増加する。ただし、カテコラミン多量投与例では、経腸栄養の持続投与中における積極的な運動は、腸管の血流障害やエネルギー不足が発生する可能性があり注意が必要である。
 重症患者に対する栄養療法のガイドラインでは、full feedingは推奨されていない。一方で、予後の観点から高蛋白質摂取が提唱されている。重症患者では骨格筋の蛋白が大量に分解されエネルギーに変換される。その量は、1日750~1,000gにも及ぶ。従って、蛋白質摂取はリハビリテーションを行う上でも重要な併用療法である。運動によるエネルギー消費を考慮すると、重症患者に対する「積極的な」運動療法開始は、1日の蛋白質摂取量が0.8g/kgを超えていることを基準とし、経腸栄養の投与は入室2~3日で蛋白質摂取量1.2g/kg/day以上を保つよう管理することが望ましい。実際の栄養管理としては、病態の変化や栄養投与方法の変更、リハビリテーションの進行に合わせて適切な栄養管理となるよう調整が必要である。