第46回日本集中治療医学会学術集会

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海外招請講演

[IL(E)19] 海外招請講演19(日本語)

Sat. Mar 2, 2019 4:05 PM - 4:55 PM 第6会場 (国立京都国際会館1F スワン)

座長:森﨑 浩(慶應義塾大学医学部麻酔学教室)

[IL(E)19] Extracellular vesicles: ARDSと敗血症の新しいターゲット

高田 正雄 (Imperial College London, UK)

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1980 MD, Tokyo Medical and Dental University, Tokyo, Japan
1992 PhD in Medical Science, Toho University, Tokyo, Japan
1991 Japanese Board of Pediatrics
1994 Japanese Board of Anesthesiology
1999 GMC registration (#4587758), UK
Specialist Register: Intensive Care, Paediatric Anaesthesia

CURRENT POST
Sir Ivan Magill Chair in Anaesthetics
Professor of Molecular Physiology in Critical Care Head, Section of Anaesthetics, Pain Medicine and Intensive Care Department of Surgery and Cancer Faculty of Medicine Imperial College London Chelsea and Westminster Hospital
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、その疾患概念が初めて報告されてから50年以上経過した現在においても、集中治療における最大の問題の一つである。ARDSの死亡率は、人工呼吸による肺障害を軽減する呼吸管理の進歩により改善したものの、現在でも30-40%以上と高い。ARDSの根本的な治療法、すなわち肺内炎症の急速な進行を抑える手段、あるいは敗血症からのARDS、逆にARDSから多臓器不全への進展をもたらす全身と肺の間の炎症の伝播を防ぐ手段は、未だ確立されてない。過去30年の研究によりARDS治療のターゲットとして多くのメディエーターが提唱されてきたが、いずれも臨床応用に至らず、ARDSの translational researchは現在大きな曲がり角に来ているといえる。臨床試験への堅固な土台となりうる、より再現性・信頼性の高い基礎研究を行う努力は必須であろう。しかし同時に発想を根本的に変え、質的に異なる新ターゲットを見いだす試みが、今切実に求められている。

全ての細胞から多少とも放出される細胞外小胞 (Extracellular vesicles, EV) は、かつて単なる細胞の「塵」と考えられていたが、近年になって新しい細胞間コミュニケーション媒体として、医学各領域で大きく注目されている。EVはタンパク質・脂質・核酸などさまざまな分子を積荷としていわばフェリーのように運搬している。EVによる情報伝達の大きな特徴は、こういった積荷分子が脂質二重膜内に格納されているため、体液・血液中で通常起こる急速な拡散・中和・分解から守られていることであろう。したがってEVは、炎症シグナルを一括してかつ安定した形で長距離運搬し、遠隔標的細胞や臓器に届けることが理論的に可能である。もしARDSにおける炎症の進行や伝播にEVが関与しているとすれば、個々のメディエーターをブロックするより、それらを運ぶ「生物学的なフェリー」であるEV自体の放出や標的細胞への取り込みをコントロールすることにより、新しい次元での治療戦略を確立できる可能性がある。

本講演では、ARDS・敗血症領域における近年のEV研究を概観し、我々の最近の研究結果、特にEVの一種であるマイクロベジクル(microvesicles)のARDSにおける役割に関する知見を紹介する。ARDS・敗血症の新しいバイオマーカー、治療ターゲットとしてのEVの可能性に関して考察し、合わせて次世代の集中治療医学におけるtranslational researchの意義に関して考えてみたい。