第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

国内招請講演

[IL(J)5] 国内招請講演5

2019年3月2日(土) 08:45 〜 09:35 第18会場 (グランドプリンスホテル京都B2F プリンスホール1)

座長:藤本 早和子(京都府立医科大学附属病院)

[IL(J)5] 患者の力を引き出す、患者と家族をつなぐ――集中治療室に勤務する看護師の語りの現象学

村上 靖彦 (大阪大学 人間科学研究科)

ライブ配信】

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2000年Ph.D.(パリ第7大学、精神病理学・基礎精神分析学)
大阪大学人間科学研究科教授。
著書に『自閉症の現象学』(2008、勁草書房)、『治癒の現象学』(2011、講談社)、『摘便とお花見 看護の語りの現象学』(2013、医学書院)、『仙人と妄想デートする 看護の現象学と行為の哲学』(2016、人文書院)、『母親の孤独から回復する』(2017、講談社)、『在宅無限大 訪問看護師が見た生と死』(2019、医学書院)、『専門看護師のコンピテンシー』(共著:2019予定、医学書院)他。
集中治療室における看護は、たえず更新される高度な技術の修練と長時間連続する精密な業務を要求されると聞く。くわえて集中治療室の環境自体は多くの器械に囲まれ、重篤な状態にある患者は(症状の上でも、器械につながれているという理由からも)ベッドからほとんど動くことができない。このような患者と看護師双方の条件ゆえにコミュニケーションが制限されやすいとも聞く。看護の本質が対人的なケアであり、対人ケアがコミュニケーションに依っているとすると、この物理的な条件は集中治療室における看護に大きな制約を設けることになるのだろう。
ところが、あるいはむしろ「それだからこそ」というべきか、私がインタビューをお願いした集中治療室勤務の看護師たちは、いかにして発話が難しい患者とコミュニケーションをとって苦痛を取りのぞき願いを聞き取るのか、そしていかにして患者と家族をつなぎ家族を支えるのか、その繊細な気遣いを語った。まさにこのような物理的な制約ゆえに、対人ケアの技術がとぎすまされていくのだろう。そのような看護師たちの語りの分析から集中治療室の看護の特質をどのように捉えることができるのかを考えていきたい。
ここでは現象学的な質的研究と呼ばれる方法論をもちいて、一人ひとりの語りを細かくときほぐす作業から見えるものを描いていく。重症の患者へのケアや看取りにおける家族へのケアにおいて、目に見える気遣いの背後にかくれている看護師たちの構えがもつ構造をとりだすことで、集中治療領域における看護がもつケアの側面からの熟練のありかたをかいま見ることができたら幸いである。