第46回日本集中治療医学会学術集会

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国内招請講演

[IL(J)7] 国内招請講演7

Sun. Mar 3, 2019 8:45 AM - 9:35 AM 第1会場 (国立京都国際会館1F メインホール)

座長:松田 兼一(山梨大学医学部救急集中治療医学講座)

[IL(J)7] Critical Careにおける"Less is More"を考える

平澤 博之 (千葉大学名誉教授)

オンデマンド配信】

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1971年千葉大学大学院医学研究科修了
1975年~1978年New York大学外科およびYale大学外科へ留学
1978年千葉大学第二外科学教室助手
1984年千葉大学病院救急部・集中治療部部長・助教授
1995年千葉大学救急集中治療医学教授
2006年同定年退職、千葉大学名誉教授、順天堂大学客員教授、久留米大学客員教授、聖マリアンナ大学客員教授
2010年藤田保健衛生大学客員教授、地方独立行政法人東金九十九里地域医療センター理事長兼東千葉メディカルセンター長
2017年国際医療福祉大学大学院特任教授
  われわれintensivistは取り扱う症例が重症であるが故に、かかる症例を救命あるいは治癒させるために、多くの治療法に関して従来は最大限の効果を期待して、最大限のintensityでその治療法を適用してきた。しかしながら臨床経験が蓄積されるにつれて、いくつかの治療法において、あるいは同じ治療法でも対象症例によっては、治療法のintensityを小さくした方が、副作用をはじめとするadverse eventが少なくなり、結果として総合的にみてより大きな臨床効果を挙げる場合があることが判明し、このことは”Less is More”というコンセプトで論じられるようになった。Low tidal volume ventilationや、当初提案されたよりはより緩い目標値での血糖コントロール、ARDS症例に対する輸液制限療法、侵襲直後の栄養管理における投与エネルギー量の制限などはその典型である。 ”Less is More”の概念は、近年とくにresuscitationに関連して顕著になってきた。心肺停止という最重症例を目の前にした時、多くの治療法をそのintensityを最大限にして適用しようとするのは想像に難くない。急性心筋梗塞症例に対する酸素投与の制限、体温を34℃に維持するTherapeutic Hypothermiaから36℃に維持するTargeted Temperature Managementへの変更、心肺停例に対する気道確保として気管挿管を第一選択としないなどはその典型例であり、現在ではすでにガイドラインにも記載されているほどである。 しかし一方では”Less is More”が怠け者や臆病者の言い訳になってはいけないと考える。これまで”More is More”、”More is Better”という立場で行われてきた各種治療法が、今は”Less is More”の方向に振れ始めている。しかし将来的には多くの治療法が、効果発現の程度とadverse event発症のバランスの観点から、個々の症例の状態や背景を考慮した上で、”Just is Just”という方針のもと、その症例に最適なintensityで行われるようになるであろう。このことがまたprecision medicineにもつながるものと考える。