第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

ジョイントパネルディスカッション

[JPD2] ジョイントパネルディスカッション2
(日本集中治療医学会・日本救急医学会/GSA委員会企画) 世界の敗血症の現状と課題 GSA2020を前に

2019年3月3日(日) 10:20 〜 11:50 第7会場 (国立京都国際会館1F Room E)

座長:中川 聡(国立研究開発法人国立成育医療研究センター集中治療科), 松嶋 麻子(公立大学法人名古屋市立大学大学院医学研究科先進急性期医療学)

[JPD2-2] RRS/EWSの普及によって敗血症の予後は改善したか?

川崎 達也, 小倉 裕司, 松嶋 麻子, 井上 茂亮, 井上 貴昭, 志馬 伸朗, 中川 聡, 中田 孝明, 藤島 清太郎, 大野 博司, 垣花 泰之, 松田 直之, 明神 哲也, 福家 良太, 薬師寺 泰匡, 剱持 雄二, 西村 匡司, 田中 裕 (日本集中治療医学会GSA委員会、日本救急医学会敗血症合同活動委員会)

2004年に最初のSurviving sepsis campaign guidelines (SSCG)が公表されて以来、適切な抗菌薬療法と循環動態の安定化を軸とする早期治療は、敗血症の予後を改善するためのキーポイントと位置づけられてきた。そして、その早期治療を達成するための大前提となるのは、敗血症の早期認識にほかならない。2016年以前にはSIRS基準が敗血症を疑う患者のスクリーニングツールとして流用されることが多かったと思われるが、2016年のSepsis-3定義への移行に際して、SIRSに代わるツールとしてquick SOFA (qSOFA)スコアが提案された。しかしながら、様々な観察研究において、重症化しつつある感染症患者を認識するためのqSOFAスコアの識別能に疑問が投げかけられている。
一方、Rapid response system (RRS)は1990年代末に豪州で初めて導入されて以降、先進諸国を中心に急速に世界中に広まったが、一般病棟において重症化しつつある患者を早期認識し、適切な対応スキルを備えた医療者が早期治療に着手することにより、重篤有害事象を回避するための病院横断的な医療安全管理システムである。とりわけ、RRSの4つの要素(起動・対応・システム改善・指揮調整)のうち、起動要素は有効なRRSを構築するための核心とされており、かつてのような単発のバイタルサイン閾値を定めた起動基準から、現在では複数のバイタルサインをスコア化して総合的に評価するEarly warning score (EWS)を利用した起動へと世界的に移行しつつある。
残念ながら、RRS/EWSの導入効果に関する臨床研究に特有の困難さが壁となり、敗血症の予後改善との関連は直接的には証明されていない。それでも、早期認識・早期治療を旨とするRRS/EWSは、敗血症診療とすこぶる相性が良いと言っても過言ではないであろう。実際、RRSが起動された患者のうち敗血症は2~5割を占めたとも報告されており、対応チームが使用することを想定した適切な経験的抗菌薬選択のアルゴリズムも提唱されている。また、EWSの最も洗練された形と言える英国発祥のNational EWS (NEWS)は、重症化しつつある感染症患者の識別能において、SIRSやqSOFAを優に上回ることが示されている。RRS/EWSは本質的には重症化しつつある患者を一切合切掬い上げる“底引き網”であり、敗血症患者だけを“一本釣り”する方策ではないが、結果的に敗血症の予後改善に寄与するはずと考えるのが妥当であり、わが国でも普及を強く推進してゆくべきものである。