第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

ジョイントシンポジウム

[JSY4] ジョイントシンポジウム4
(日本集中治療医学会・日本熱傷学会) 重症熱傷の集中治療

2019年3月2日(土) 10:50 〜 12:20 第6会場 (国立京都国際会館1F スワン)

座長:織田 順(東京医科大学 救急・災害医学), 佐々木 淳一(慶應義塾大学医学部救急医学教室)

[JSY4-2] 集中治療医が知っておくべき熱傷創の治癒過程

海田 賢彦, 山口 芳裕 (杏林大学 医学部 救急医学)

重症熱傷は、生体に加わる侵襲が過大であるがゆえに、究極の外傷と称される。重症熱傷患者の管理においては、熱傷自体の侵襲に対する生体反応に加えて、気道熱傷による呼吸不全、創部からの体液漏出や血管透過性亢進による循環不全、焼痂組織切除から創閉鎖に至るまでの頻回の手術および周術期管理、熱傷創に対する鎮痛管理など重症熱傷患者に特有の病態を慮る必要がある。そのため重症熱傷患者を扱う上において、集中治療医には、侵襲に対する生体反応から、呼吸、循環、感染、鎮静鎮痛、栄養、周術期管理など集中治療のほとんど全ての分野と言っても過言でない知識と技術が求められる。
とりわけ、重症熱傷の患者管理の枢要たるのが、綿密な手術戦略に基づいた熱傷創管理である。熱傷創部の状態を継続的に把握することは、全身状態を推しはかることを可能にするため、集中治療医は全身管理の知識に加えて、熱傷創の治癒過程に精通している必要がある。
熱傷創の経過を把握するためには、根底をなす手術戦略を顧慮しておく必要がある。重症熱傷患者に対する手術戦略を立てる上においては、2つの段階を認識すべきである。一段階目は、戦略上の初動期にあたる焼痂組織を段階的に全て切除する受傷後1週間前後の期間である。重症熱傷においては焼痂組織が諸悪の根源であり、焼痂組織を全て可及的早期に切除することが救命への第一歩となる。この時期は受傷後早期であるため、特に循環動態の変動に留意する。さらに広範囲熱傷であれば恵皮部が不足していることから、焼痂組織を切除した部分には同種皮膚もしくは人工真皮で被覆し皮下組織を構築する必要が生じる。人工真皮で被覆した場合には、感染の可能性が高いことも念頭におかなければならない。続く二段階目は、急性期を乗り越えて、自家皮膚移植を継続的に行い熱傷創の閉鎖を目指していく時期である。この時期において重要なのが感染管理である。早期手術の導入、様々な医療技術の進歩などにより重症熱傷の急性期死亡例は減少し、現在重症熱傷患者の死因のほとんどは感染に起因するものとされている。すなわち、この時期の集中治療管理の質が帰趨を握ることになる。厳密な感染管理のためには、創部の状態を継続的に認識するとともに、創部の細菌、真菌の推移についても正確に把握しておく必要がある。
本講演においては、早期手術から始まる周到な手術戦略を中心として、集中治療医が重症熱傷患者を管理する上で理解しておくべき熱傷創の治癒過程について論じる。