第46回日本集中治療医学会学術集会

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ジョイントシンポジウム

[JSY4] ジョイントシンポジウム4
(日本集中治療医学会・日本熱傷学会) 重症熱傷の集中治療

Sat. Mar 2, 2019 10:50 AM - 12:20 PM 第6会場 (国立京都国際会館1F スワン)

座長:織田 順(東京医科大学 救急・災害医学), 佐々木 淳一(慶應義塾大学医学部救急医学教室)

[JSY4-3] 重症熱傷患者の予後向上のためのチャレンジ

大須賀 章倫 (独立行政法人地域医療機能推進機構 中京病院 救急科)

重症熱傷は気道、呼吸、循環、腎、代謝、感染、栄養といったあらゆるところに不具合を生じるためまさに全身の集中管理を要する疾患である。感染、局所療法、手術等は他演者に譲り、主に蘇生輸液に関する現状と、今後の展望を総括する。しかし重症熱傷患者は輸液管理のみを行えば救命できるわけではないことは初めに明記しておく。現在の広範囲熱傷の治療の歴史は1940年代に米国で起こった2つの大火から始まった。その後ショックという病態への理解が深まるとともに、熱傷は単に皮膚という外界とのバリア機能が破綻するだけでなく、全身性の炎症反応につながり、熱傷面積と体液喪失・末梢での血管外漏出、およびそれに伴う全身性の浮腫形成と関係することが分かった。ebb期とflow期という概念の確立により、受傷後8時間以内に大量の輸液を行い、その後輸液量を漸減するという戦略が用いられるようになり、1968年のParklandの公式の開発につながる。1970年代は主に熱傷に伴う膨大な消費熱量や窒素排泄の増加に関する研究が進み、1980年から2000年にかけてこれらの現象の詳細な病態が把握されるようになった。熱傷急性期には大量のタンパク漏出がみられるため早期のコロイド輸液は浮腫の遷延を助長するだけであるという病態の理解と、1998年のアルブミンの投与は予後の悪化と関連するというCochraneの報告、さらに敗血症に対するEGDTの普及とあいまって晶質液単独による大量蘇生輸液の時代を迎える。しかしこれらの治療戦略により腹部コンパートメント症候群を含む過剰輸液に伴う合併症の報告が相次ぎ”fluid creep”という概念が導入された。現在は様々なデバイスの開発に伴い様々な治療戦略が推奨されるが、熱傷患者に関しては最適な治療戦略の発見というよりは、むしろ多くの疑問点が浮上してきている。このような状況の中で、現在は早期の輸液の制限およびルーチンのコロイド輸液の使用の考慮が再検討されるに至った。2018年サンアントニオで行われた米国集中治療学会のコンセプトは”Less is More”である。多くの治療目標がありそれに振り回されてむしろ患者の予後を悪化させてはいけない。熱傷蘇生のプリンシパルは輸液における合併症を起こさない最低限の輸液量で蘇生を完遂させることにある。この主要命題に対して我々が現在できること、および今後の課題について総括したい。