[JSY4-5] 重症熱傷の感染管理
重症熱傷患者の死亡は、受傷早期の循環不全(いわゆる熱傷ショック)とその後に訪れる敗血症が主な原因である。今回は、重症熱傷患者の救命を目的に、社会保険中京病院(現独立行政法人地域医療機能推進機構 中京病院)で行った調査と感染対策について報告する。1.敗血症の起因菌と感染対策敗血症で死亡した広範囲熱傷の患者を調査したところ、約6割の患者において、創、痰、尿、血液、カテーテルのいずれかからmethicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA)が検出され、全員から多剤耐性緑膿菌が検出されていた。これに対し、接触予防策と環境整備を中心とした感染対策を施行したところ、MRSAの検出率に大きな変化はなかったが、多剤耐性緑膿菌の検出率は1/3まで低下した。敗血症の発症率および受傷から敗血症を発症するまでの日数は感染対策の前後で変化はなかったが、多剤耐性緑膿菌による敗血症が減少した結果、死亡率は半減した。2.熱傷患者におけるToxic Shock Syndrome (TSS)TSSは、急激にショックから多臓器不全に陥る病態である。小児の熱傷患者における発症頻度は2.5-14%とされており、診断に至らず治療が遅れた場合には死亡率は50%に上ると言われている。成人では思春期までにTSST-1に対する中和抗体が産生されるためTSSの発症は極めて稀と考えられてきたが、近年、MRSAの院内感染により発症するTSSが小児だけでなく、成人でも問題となりつつある。我々の調査研究では、熱傷患者のMRSA院内感染によるTSSの発症頻度は8.2%であり、年齢や熱傷面積の分布に一定の傾向は認めなかった。TSST-1を産生するMRSAに感染した患者の内、TSSを発症した患者は発症しなかった患者と比較して、来院時の抗TSST-1抗体は低かった。TSST-1を産生するMRSA株が蔓延する施設においては、小児、成人に関わらず、MRSAの院内感染によるTSSの発症を考慮する必要がある。