第46回日本集中治療医学会学術集会

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教育セミナー(ランチョン)

[LS15] 教育セミナー(ランチョン)15

救急・集中治療領域におけるグラム陰性菌感染症〜熱傷患者を中心に〜

Sat. Mar 2, 2019 12:40 PM - 1:40 PM 第3会場 (国立京都国際会館1F アネックスホール1)

座長:織田 成人(千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学)

共催:MSD株式会社

[LS15] 救急・集中治療領域におけるグラム陰性菌感染症〜熱傷患者を中心に〜

佐々木 淳一 (慶應義塾大学 医学部 救急医学)

救急・集中治療領域の対象とする患者は,好中球やリンパ球などの白血球系細胞の機能低下を特徴とする免疫低下病態であり,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌,バンコマイシン耐性腸球菌(VRE),多剤耐性緑膿菌(MDRP),多剤耐性アシネトバクター(MDRA),クロストリディオイデス(クロストリジウム)・ディフィシル(C. difficile)などの薬剤耐性菌が医療関連感染の病原体として注目されている.今や薬剤耐性(AMR)対策は国家レベルの問題となっており,世界各国が行動計画(アクションプラン)を開始している.日本政府も2016年4月に行動計画を策定・公表し,2020年までに「抗菌薬の使用量を3分の2に減らす」「耐性菌に効果のある新薬の開発」などと共に「緑膿菌のカルバペネム(イミペネム)耐性率を10%以下に低下させる」ことを目標に掲げている.1950年代,熱傷患者の死因の8割はブドウ球菌や緑膿菌による敗血症(sepsis)であったが,以降は抗菌薬の進歩と共にブドウ球菌感染は減少,反対に緑膿菌による敗血症が死因の9割に達し大きな問題となった.1964年,米国のTeplitzは,Ⅲ度熱傷創に付着した緑膿菌は,焼痂組織下に侵入・増殖,病巣を形成し,毛細血管内に入り,菌血症を起こすという病態を解明,この現象をPseudomonas burn wound sepsisと呼んだ.この病態に基づき,抗緑膿菌作がある局所療法剤が開発され,全身管理の技術の進歩も加わり,早期の敗血症による死亡は減少,熱傷患者の予後は大幅に改善された.近年においても,重度熱傷患者における感染の原因として通常検出される病原体は,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,アシネトバクターである.これらの病原体に対して薬剤耐性が進行し,耐性菌が増加していることが世界的な問題になっているが,特に多剤耐性化した緑膿菌は,予後を左右する重症感染の起因菌として極めて重要である.一方で,緑膿菌の多剤耐性の有無による死亡率に意差は認められなかったと報告もあり,薬剤耐性と予後の関係については不明な点も多い.また,入院中に発生する医療関連感染は,重度熱傷患者の予後に大きな影響を及ぼす因子である.例えば,人工呼吸器関連肺炎(VAP)発症の予防は重度熱傷患者の予後改善のために重要であると強調されている.重度小児熱傷患者の検討では, VAPの発症率は約40%であり,原因病原体の大部分は肺炎球菌,緑膿菌,アシネトバクター,黄色ブドウ球菌であったと報告されている.本講演では,熱傷診療ガイドラインや最新の敗血症診療関連のガイドラインなどを参照し,救急・集中治療領域,特に重度熱傷患者におけるグラム陰性菌感染症について解説する.