第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

教育セミナー(ランチョン)

[LS20] 教育セミナー(ランチョン)20

血液浄化法:病態に応じた施行方法の工夫 ~血液浄化量設定からECMOとの併用まで~

2019年3月2日(土) 12:40 〜 13:40 第8会場 (国立京都国際会館2F Room B-1)

座長:垣花 泰之(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 救急・集中治療医学分野)

共催:旭化成メディカル株式会社

[LS20] 血液浄化法:病態に応じた施行方法の工夫
~血液浄化量設定からECMOとの併用まで~

安部 隆三 (千葉大学大学院 医学研究院 救急集中治療医学)

 集中治療を要する重症患者の多くは,腎代替療法(RRT: renal replacement therapy)をはじめとする急性血液浄化法を要する.しかし,病態に応じた施行方法や条件設定に関しては,確立されているとは言いがたい.
 急性腎傷害 (AKI: acute kidney injury)に対する早期のRRT開始が予後を改善するエビデンスは乏しい.しかしAKIの原因が敗血症をはじめとする高サイトカイン血症の場合には,サイトカイン吸着ヘモフィルターを用いた血液浄化法によって転帰の改善が期待できる可能性がある.
 一方,長期間の持続的RRT (CRRT: Continuous RRT)に伴う弊害,すなわちCRRT traumaが近年注目されている.非選択的に各種の有用物質 (抗菌薬,電解質,微量元素,ビタミン,アミノ酸など) までも除去してしまうため,転帰に悪影響を与える可能性がある.特に抗菌薬の血中濃度は,敗血症患者の転帰に直結するため,血液浄化量設定において薬物血中濃度測定結果を考慮に入れる必要がある.また,CRRTに伴う低カリウム血症や低リン血症が転帰に影響することが明らかになっており,さらに投与した栄養分が除去され不足する恐れもあることから,モニタリングに基づいた対策が必要である.
 逆に,大量の肝性昏睡物質が蓄積した昏睡型急性肝不全のような病態においては,オンラインシステムを用いた大量血液濾過によって血液浄化量を最大化する必要があり,それぞれの病態に応じたモダリティの選択,血液浄化量設定が重要である.
 近年,体外式膜型人工肺 (ECMO: extracorporeal membrane oxygenation) の症例数が増加しており,ECMOと血液浄化法を併用する機会も増加している.ECMO症例ではしばしばAKIを合併するが,RRTをECMO回路に組み込む場合,当科では過剰な陽圧,陰圧を避けるために遠心ポンプ前後にバイパス回路を作成して接続,回路内圧をモニターしている.また,ECMOが必要となった原因病態の治療として血漿交換を行う場合には,血漿交換に持続的血液濾過透析を組み合わせ,膠質浸透圧や酸塩基平衡の急激な変化を回避している.
 腎傷害と呼吸不全を合併した患者に対するより効果的な補助療法の確立を目指して,当科では現在ELRAD (Extracorporeal Lung and Renal Assist Device)を開発中である.これは,脱血した血液に酸を投与することで溶存二酸化炭素を上昇させ,その後に配置した人工肺での二酸化炭素排出効率を向上させるシステムであり,少ない血流量でも有効であるため,大径カニュレを要することなく安全に適応が拡大できると考えられる.
 今後,血液浄化法の適応はさらに拡大され,より複雑な病態の患者が増加すると考えられる.より有効かつ安全な施行方法の確立と,新たな機器や技術の開発が期待される.