第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

教育セミナー(ランチョン)

[LS29] 教育セミナー(ランチョン)29

炎症病態での頻脈性心房細動に対する治療戦略

2019年3月3日(日) 12:40 〜 13:40 第4会場 (国立京都国際会館1F アネックスホール2)

座長:溝渕 知司(神戸大学大学院医学研究科 外科系講座 麻酔科学分野)

共催:小野薬品工業株式会社

[LS29] 炎症病態での頻脈性心房細動に対する治療戦略

辻田 靖之 (滋賀医科大学医学部附属病院 救急・集中治療部)

 周術期や敗血症など炎症病態の患者では、交感神経活性や炎症性サイトカインの上昇が原因で心拍数が上昇し頻脈性心房細動となることがあり、入院中に心房細動が発生すると慢性期の死亡率が上昇する。ここで心機能低下例では、頻脈性心房細動発生時に血行動態が悪化するので治療が必要となり、心機能が良好でも頻脈が長期間持続すると、心拡大と心収縮力の低下が生じるため治療が必要となることがある。
 日本や欧米の学会から心房細動治療についてのガイドラインが報告されている。その要点は2つで、1つは抗凝固療法についてであり、もう1つは頻脈性心房細動に対して洞調律化を目指すリズムコントロールか心拍数調節をするレートコントロールのどちらを行うかということである。しかしガイドラインはほとんど外来患者を対象とした研究を元に作成されており、集中治療領域で遭遇する急性期の心房細動ではない。現在のところ集中治療領域での心房細動の治療法に関するエビデンスは不十分である。
 急性期の頻脈性心房細動においては交感神経活性の亢進や炎症が病態に関与するため、レートコントロール薬としてβ遮断薬が適応となりやすい。しかし、心予備能の低下した患者にβ遮断薬を投与すると血圧低下等の副作用が出る可能性がある。ランジオロールは超短時間作用型静注β1遮断薬であり、作用時間が短いので調節がしやすく、速やかな心拍数減少効果がある。もし心機能や血圧が低下しても、減量や中止することにより速やかな回復が得られる。よって心機能低下例における頻脈性心房細動・粗動にも保険適応があり、副伝導路のない心不全例の心房細動に対するレートコントロール薬として推奨されている。
 敗血症ショックの一部の症例では心機能低下を伴い、敗血症性心筋障害を発症する。日本版敗血症性診療ガイドライン2016では、十分な輸液とノルアドレナリンの投与を行っても循環動態の維持が困難であり心機能低下を伴う敗血症性ショックではドブタミンを使用することが推奨されている。しかし敗血症性ショックではアドレナリンβ1受容体を介した細胞内情報伝達が障害を受けているため、ドブタミン投与により心機能が改善せず頻脈を増長する可能性がある。心機能障害のうち拡張障害の存在は敗血症性ショックの独立した予後予測因子であることも分かってきており、拡張障害がある場合は頻脈を避けなければならない。近年敗血症性ショックに対してβ遮断薬や、β遮断薬とホスホジエステラーゼⅢ阻害薬を併用することにより死亡率が低下することが報告され、レートコントロールにとどまらない作用の可能性が示唆されているが、敗血症性ショックに対するβ遮断薬の有用性に関するエビデンスも未だ少ない。
 本セミナーでは、炎症病態による頻脈性心房細動に対する治療上の問題点を挙げ、ランジオロールを中心に炎症病態での効果と今後の展望等について我々のデータを中心に報告する。