第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

教育セミナー(ランチョン)

[LS31] 教育セミナー(ランチョン)31

ICUの環境制御による医療関連感染低減への取り組み

2019年3月3日(日) 12:40 〜 13:40 第6会場 (国立京都国際会館1F スワン)

座長:竹末 芳生(兵庫医科大学病院感染制御部)

共催:テルモ株式会社

[LS31] ICUの環境制御による医療関連感染低減への取り組み

森兼 啓太 (山形大学医学部附属病院 検査部・感染制御部)

1990年代から2000年代の感染対策に関する様々な著述に、「紫外線照射やホルマリン燻蒸は行わない」という表現がみられた。これは、過去に行われていたこれらの対策が感染対策上の効果を上げておらず、むしろ害を及ぼしていたことを反映している。患者の療養環境の清浄化は、埃や目に見える汚染を除去する日常的な清掃と、高頻度接触面を主体とする清拭を中心とした清掃によって達成される、という考えである。
重症で易感染性の患者が多いICUにおいては特に、患者退室後に熱心な清掃を行っている施設も多いと思われる。リネンを交換するだけでなく、ベッド柵やオーバーテーブルなどの清拭を熱心に行い、次亜塩素酸ナトリウムなどの刺激性のある薬剤を用いる場合もある。
このような清掃は、”terminal cleaning”と表現され、前の患者が罹患または保菌していた感染症の起因病原体を取り除き、患者の療養環境は清浄化されるはずである。しかし現実には、terminal cleaningを行っても、耐性菌感染症または保菌が明らかになっている患者の退室後に同じ部屋に入院した患者がその病原体を保菌または感染症を発症するリスクは、そうでない部屋に入室する場合よりもずっと高いことが明らかになっている。2010年代に入り、清拭を主体とするterminal cleaningの限界と環境制御の新たな方法に関する模索がはじまった。
主な方法としては、紫外線照射装置、蒸気化過酸化水素発生装置、そして銅表面があげられる。しかしこれらの方法にはデメリットもある。蒸気化過酸化水素は、部屋に充満させなければならないので、密閉された個室でのみ運用可能であり、しかも実施に数時間を要する。また、銅表面は病室の全面的改装が必要であり、相当大きな初期投資を必要とする。その点、紫外線照射装置は持ち運びが可能であり、迅速に環境制御を達成できる。そして、その微生物学的効果は既に多数の論文によって示されている。臨床的効果も、四級アンモニウム塩製剤による清拭のみに対してそれに紫外線照射装置処理を追加することによって有意な耐性菌保菌・感染頻度の低減が得られたという大規模な無作為化比較試験の研究結果が発表されている。アメリカの多くの病院で既に導入され、日本でも導入されつつある。
演者らの施設では、特にグラム陰性菌の水平伝播が散発的に発生しており、清拭を主体とするterminal cleaningでは制御しきれていなかった。そこで、それに加えて本装置を導入した。本装置には光源が水銀式とキセノン式のものがあるが、機器転倒の際の安全性や地球環境への影響、および要する照射時間の短さを考慮してキセノン式を選択した。本装置の運用によって、環境の清浄化に関する微生物学的効果も確認でき、また臨床的アウトカムとしての新規MRSA分離やグラム陰性菌の水平伝播も減少しつつある。
環境制御は、新たな局面に入ってきていると言える。