[LS32] ICUで遭遇する血小板減少症
-aHUS(非典型溶血性尿毒症症候群)の病態とその診断・治療戦略-
【緒言】集中治療室で遭遇する血小板減少症の約半数は播種性血管内凝固症候群(DIC)であるとされる.対照的に血栓性微小血管障害症(TMA)の発症率は約1%に過ぎないとの知見があるが,その認知度の低さに起因していることが危惧される.非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)は,TMAの一病型に分類されているが,重症感染症に続発するaHUSの診断に際しては,DICとの鑑別に留意する必要がある.そして血管内皮細胞障害という敗血症性DICと共通した病態生理の中で,DICとTMAの臨床像の違いを見極めて診断フローを進める必要がある.本講演では,感染症に続発したaHUSの2症例を提示し,ICUにおける血小板減少症の診断・治療戦略について解説する.さらに救急集中治療領域における重症患者の遺伝的背景から見たPrecision Medicineの重要性についても考察する.【症例1】16歳,男性.インフルエンザA型と診断後,腎機能障害,出血傾向,貧血を指摘され紹介転院.来院時,血小板数 24,000/μLと低下しており,また高度溶血でLDHは測定不能,破砕赤血球も認めた.血漿交換(PE)+持続的血液濾過透析(CHDF)で溶血は改善したが腎機能障害は遷延した.ADAMTS13活性104.9%,志賀毒素産生大腸菌(STEC)陰性にてaHUSの診断のもとeculizumabを開始したところ腎機能障害は改善した.後にC3遺伝子の変異 Ile1157Thrを確認した.【症例2】62歳,男性.粘血便,血小板減少,腎機能障害を認め,近医で腹腔内感染による敗血症との診断で抗菌薬を投与されたが臓器障害が改善せず紹介転院.不穏状態,破砕赤血球認めTMAと診断しPE+CHDFを施行したが改善しなかった.ADAMTS13活性25.1%,STEC陰性にてeculizumabを投与後,尿量,血小板数ともに回復,CHDFからも離脱した.後にMCP(membrane cofactor protein)遺伝子の変異Ala311Valを確認した.【考察および結語】aHUS は,補体制御因子である Factor H(FH)や,補体成分C3に先天的に異常があることで,補体第二経路の過剰な活性化が原因とされる.その原因遺伝子によって転帰や治療反応性は異なるが,いずれにせよ早期診断早期治療が重要である.したがって,敗血症性DICに対して急性期集中治療が奏功しても遷延するTMA,さらにはPE不応性のTMAでは,aHUSを鑑別診断として念頭に置き,一早く治療を開始すべきである.