第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

教育セミナー(ランチョン)

[LS33] 教育セミナー(ランチョン)33

ICU入室患者に対するCRRT施行の実際

2019年3月3日(日) 12:40 〜 13:40 第8会場 (国立京都国際会館2F Room B-1)

座長:松田 兼一(山梨大学医学部救急集中治療医学講座)

共催:ニプロ株式会社

[LS33] ICU入室患者に対するCRRT施行の実際

後藤 孝治 (大分大学医学部麻酔科学講座集中治療部)

 大分大学医学部附属病院集中治療部(当ICU)は,1985年の開設以来,全身管理を専門にしている麻酔科医が集中治療を担う“closed ICU”システムで運営している。これまで我々が治療した重症患者数はすでに14,000例を超しており,大分県下最大規模の急性期医療の「最後の砦」として重要な役割を担っている。入室患者の約7割は当院の定例手術後患者で,残り約3割を院内または院外からの重症救急患者が占める。診療科別内訳は心臓血管外科が約半数と最多で,その他の外科系,小児科を含む内科系と多岐にわたる。
 2017年の当ICU入室症例数は714例であり,そのうち97例(13.6%)にCRRTが施行されていた。
当ICUにおけるCRRT導入基準は①血行動態不安定なAKI②血行動態不安定なCKD③コントロール不良の代謝性アシドーシス④コントロール不良の高カリウム血症としているが,過去5年間の検討において約50%が心臓手術関連急性腎傷害(CSA-AKI),約30%が敗血症性AKI,約20%が血行動態不安定なCKDに対し施行されていた。近年公開された各種ガイドラインにおいてAKIに対する血液浄化の早期導入について否定的意見が述べられているが,研究ごとに早期の定義が異なるという問題も指摘されている。我々は当ICUにおけるこれまでのデータから,KDIGO基準Stage2までの早期にCRRTを導入することが望ましいと考えている。血液浄化流量に関しては海外において20-25ml/kg/hが推奨されている。当ICUでは以前より海外の推奨量と同程度の血液浄化流量1800ml/hでCRRTを開始し,残腎機能や病態の改善を目安に徐々に減量を行いCRRTの早期離脱を目指してきた。我々はこれまで血行動態不安定なAKI患者に対し血液浄化流量1800ml/hでCRRTを施行することによりCSA-AKI(J Anesthe Clinic Res. 2011)や敗血症性AKI(日急性血浄化会誌.2014)において開始3時間後には血行動態が有意に改善することを報告してきた。よって,日本でいうところの(保険診療を越えた)高流量CRRTによる循環改善効果がICU入室患者の病態改善に寄与する役割は大きいと考えている。一方,高流量CRRTには抗菌薬や栄養の喪失というデメリットがあることに注意する必要がある。当ICUでは各種抗菌薬のCRRTクリアランスに関する研究も行っているが,選択した抗菌薬の薬理学的特性を理解し,残腎機能とCRRTクリアランスを考慮した投与計画を行うことが重要である。CRRTの膜選択に関してはこれまで特定の膜素材を推奨する根拠は得られていない。当ICUでは心臓手術術後患者が多いという背景もあり,約70%は非吸着膜が選択されている。さらに近年では,出血のリスクの高い心臓手術後急性期において抗凝固薬を使用せずに非吸着膜を選択することでCRRTの早期施行開始症例数も増加している。
 本セミナーでは,当ICUにおける臨床データをもとにCRRT施行の実際を紹介し,さらにニプロ社が新規開発した非対称トリアセテート(ATA)膜ヘモフィルターの治験データをもとに,ICU入室患者に対するCRRT施行におけるATA膜ヘモフィルターの位置づけを解説する。