[LS34] 一酸化窒素吸入療法の発展と今後の課題
1980年代に一酸化窒素が血管平滑筋張力の調節に大きな役割を果たしていることが発見されて以後、多様な病態に対して吸入療法の臨床応用が試みられてきた。一酸化窒素を吸入させると換気されている肺胞血管平滑筋が弛緩・拡張し、肺動脈圧低下や換気血流比改善によるガス交換改善が期待できる。そのため吸入療法の対象病態は、肺高血圧による右心不全や低酸素性呼吸不全であった。現在、一酸化窒素吸入療法の保険適応対象疾患も新生児および心臓外科周術期右心不全である。低酸素性呼吸不全は、1990年代から2000年代にかけて検討されたが患者予後に対する有効性を示すことはできていない。しかし致死的な低酸素血症や呼吸不全による右心不全が問題となる病態では一定の役割を果たす可能性がある。一酸化窒素は肺胞血管から血管内に吸収されヘモグロビンと反応して代謝される過程でメトヘモグロビンが増加することが副作用の一つである。また肺胞に対する毒性に関する懸念もあるため大量・長期間の吸入は望ましくない。従って安全のためには吸入一酸化窒素濃度の制御が重要となる。一酸化窒素ガス管理システム「アイノフローDS」が発売される前は工業用ボンベを人工呼吸器の側管から注入するという方法を取っていた時期があったが、これは注入部の位置や呼吸器設定によっては思わぬ高濃度を招いていた可能性がある。アイノフローDSは呼吸器回路のドライガス流量を計測し、流量に応じた一酸化窒素を注入することで吸入一酸化窒素濃度を制御する機構を持っている。濃度制御に関しては高頻度換気を含む各種換気モードで証明されており安全な吸入が可能となっている。一酸化窒素は以前ヘモグロビンと反応し速やかに代謝されるため体循環には、ほとんど影響しないと考えられていた。しかし近年体循環に影響する可能性とメカニズムが示唆されており、臨床試験で時に示される予後悪化と関連している危険性もあるため注意を払う必要がある。本セミナーでは、以上述べた歴史的経緯と臨床成績、吸入時の注意点とガイドライン、実際の投与例を呈示する。