第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

教育セミナー(ランチョン)

[LS5] 教育セミナー(ランチョン)5

敗血症性ショックと脂質メディエーター

2019年3月1日(金) 12:40 〜 13:40 第5会場 (国立京都国際会館1F Room D)

座長:垣花 泰之(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 救急・集中治療医学分野)

共催:東レ株式会社/東レ・メディカル株式会社

[LS5-2] トレミキシンによる循環改善効果:新たな機序の可能性

升田 好樹 (札幌医科大学医学部 集中治療医学)

 敗血症の基礎研究の進展により様々な面から病態の解明が進められている.特にグラム陰性桿菌の構成成分であるエンドトキシン(lipopolysaccharide: LPS)は古くからショックの原因として研究が進められてきた.病原微生物の菌体成分を構成する蛋白や脂質(pathogen associated molecular patterns: PAMPs)に対する様々な細胞表面受容体が発見されるに到り,LPSは敗血症への病態進展に関わるメディエーターの一つ,即ちone of themに過ぎないという考えから、LPSに対する治療効果に対する疑問が投げかけられるようになった.一方,種々のPAMPsそのものではショックの病態を再現できず、同時にLPSといった成分の存在が必須であるということも明らかとなっており,LPSをターゲットとした治療の根拠が再確認されるようになってきた.
 トレミキシン(PMX-DHP)は、敗血症に対するエンドトキシン吸着療法として本邦で1994年に発売以来多くの臨床効果が報告されている.特にショックからの離脱としての血圧上昇作用を期待して多くの患者に用いられてきた.LPS吸着から遺伝子レベルでの反応が変化し,ベクトルの向きが変わるにはおおよそ1〜2時間程度は必要であると言われる.しかし,PMX-DHPでは治療開始後30分以内での急激な血圧上昇が生じることから、本来の機序とは異なる別の機序が考えられた.一つの説明としては,ショックを誘導する因子としての内因性大麻(endocannabinoids:CBs)である.CBsは白血球や血小板から産生される脂質メディエーターであり,白血球由来のarachidonoylethanolamine (anandamide: AEA)と血小板由来の2-arachidonoylglycerol (2-AG)にわけられ,いずれも強力な血管拡張作用を有する.このように従来の蛋白質だけではなく脂質メディエーターが敗血症の病態に大きく関わっている可能性が報告されているが十分には検討されていない.今回演者の一人である神戸大学質量分析総合センターの篠原先生との共同研究にて,PMX-DHP施行時の脂質メディエーターを網羅的に検討し,超急性期ならびにその後の急性期の血圧上昇機序について検討した.
 PMX-DHP施行後の超急性期に生じる血圧上昇については,血小板の活性化と関連するトロンボキサンB2(TXB2)の上昇と関連している可能性が推測された.また,超急性期以降の血圧上昇の機序の一つとしてCBsの中でも血小板由来の2-AGが関連している可能性が推測された.敗血症の病態形成にはPAMPsの刺激による活性化白血球と活性化血小板の複合体が血管内皮細胞障害から臓器障害へと進展する一つのステップであると考えられている.このことからもPMX-DHPの臨床効果の一つとして血小板機能に対する作用が関連している可能性が考えられ,機序解明の一つの切り口となるかもしれない.