[O1-6] 心臓血管外科術後患者におけるデクスメデトミジンのせん妄抑制効果の検討
【背景】ICUにおけるせん妄発症は、合併症や死亡率の増加や入院期間延長につながるとされている。これまでせん妄の予防や治療に効果的であるとする介入はほぼ皆無であり、その予防に早期リハビリテーションが有効とされているのみである。近年、人工呼吸管理中の鎮静薬として使用されるデクスメデトミジン(DEX)のせん妄抑制効果が指摘されているが、一定の見解を得ていない。本研究では、術後せん妄の発症率が高いとされる心臓血管外科術後患者を対象に、DEXがせん妄発症に与える効果を検討した。【目的】人工心肺下で手術を行った心臓血管外科術後患者を対象に、早期から継続的にDEXを使用した患者と使用しなかった患者との間でせん妄発症率に差があるかを後ろ向きに比較検討し、DEXのせん妄予防効果を示すことを目的とする。【方法】本研究は、当院にて2016年11月1日から2018年7月31日までに、人工心肺下で手術を受けた心臓血管術後患者を対象とし、倫理委員会承認のもと行われた。当院ICUでは、2016年11月より、CAM-ICUにて全ての患者に対して担当看護師がせん妄のスクリーニングを行っている。手術当日の0時前から術後1日目(1POD)の8時まで継続してDEXを使用した患者(DEX群)とICU滞在中にDEXを使用しなかった患者(Control群:C群)の診療録から1PODから2PODまでのせん妄の有無を抽出し、その発症率を比較した。DEXを1PODの8時までに投与せずに、その後せん妄を発症してからDEXを開始した患者はC群に含めた。DEX群とC群で、挿管期間ならびにICU滞在日数も比較した。せん妄発症率の比較にはChi-squared testを用い、p < 0.05を有意とした。また、2PODまでのせん妄発症を目的変数とした多変量ロジスティック回帰分析を行い、術後せん妄に影響のある因子を検討した。【結果】対象期間中の心臓血管外科術後患者は421名であり、そのうちDEX群は99名、C群は112名であった。C群の中で、せん妄を発症後にDEXを開始した患者は3名であった。2PODまでのせん妄発症率は、DEX群で24.2%、C群で39.3%であり、DEX群で有意に低い値であった(p=0.029)。両群の患者背景でせん妄発症に独立して影響を与えたものは、年齢および入室時SOFAスコアであった。DEX群では、C群よりもICU滞在期間が有意に短縮していた(p=0.01)。【結論】心臓血管外科術後のDEX投与は、せん妄発症を抑制する可能性がある。