第46回日本集中治療医学会学術集会

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一般演題(口演)

補助循環 症例

[O100] 一般演題・口演100
補助循環 症例04

Sat. Mar 2, 2019 5:50 PM - 6:30 PM 第12会場 (国立京都国際会館5F Room 510)

座長:杉田 学(順天堂大学医学部附属練馬病院救急・集中治療科)

[O100-3] 痙攣による酸素需要増大のためECMOの酸素供給能の限界を超えた一例

古川 豊1, 服部 憲幸2, 長野 南1, 宮崎 瑛里子1, 安部 隆三2, 立石 順久2, 高橋 由佳3 (1.千葉大学医学部附属病院 臨床工学センター, 2.千葉大学大学院医学研究院 救急集中治療医学, 3.千葉大学医学部附属病院 看護部 ICU/CCU)

【背景】
 ECMOの酸素供給能(DO2 ECMO)は,人工肺での酸素付加能(ΔCaO2)とECMOの血流量(Q)により規定される(DO2 ECMO=ΔCaO2×Q).これに対し,患者の酸素需要は病態や身体活動により常に変化するため,ECMOに依存している状態では,供給不足とならないように注意することが重要である.今回,重症呼吸不全に対しするV-V ECMO施行中に痙攣重積を起こし,酸素需給バランスの破綻をきたした症例を経験したので報告する.
【症例】
 56歳男性(体重54kg).関節リウマチ治療中,2週間前から呼吸困難感出現.カリニ肺炎と診断され治療されていたが前日に呼吸状態悪化し挿管人工呼吸管理となるも,さらに呼吸状態が悪化したため当院搬送となった.当院到着後約1時間でV-V ECMO開始,問題なく経過していた.
第2 ICU病日,突然SpO2 70%台,SvO2測定範囲外の低酸素状態となった.ECMO本体や回路には問題がなく,酸素流量や血流量の変更,人工呼吸器の設定変更を行うも十分な改善が得られず,患者の安全性を最優先に考え,ECMOの人工肺を酸素供給能のより大きいものに変更した.全身性の痙攣が起きていたことから,鎮静薬の追加投与や筋弛緩薬の投与を行ったところ,低酸素状態は速やかに改善した.これはECMO治療中に起こった痙攣重積により,酸素需要が人工肺の酸素供給能を上回り,低酸素状態となったと考えられた.
 本患者に対し当初使用していた人工肺では,人工肺後のSO2が100%になるには理論上,SvO2が約60%を超えている必要があり,実臨床では人工肺の劣化や再循環も影響するためさらに高いSvO2が必要となる.本症例のようにSvO2が60%を下回り測定不可となった状態では,我々が使用したシステムのECMO酸素供給能は,そのシステムの最高血流量をもってしても明らかに不足であった.
【結論】
 一般成人の安静時酸素消費量は約250mL/minと言われており,一般的な人工肺の酸素供給能とほぼ等しく,酸素消費が亢進した痙攣重積状態での酸素化維持は時として困難である.人工肺の選択においては,小児や輸血ができないなどの特別な症例を除き,できる限り酸素供給能の大きな膜を使用すべきである.