[O101-3] 浴槽内溺水で搬送された稀な小脳橋角部腫瘍の一症例
【背景】溺水剖検例には脳腫瘍の報告例もあるが, 集中治療の過程で原因の診断に至り,各科連携により救命しえた例は少ない.また,小脳橋角部類表皮嚢胞の悪性転化例は非常に稀である.【目的】溺水に至った原因が小脳橋角部腫瘍による中枢神経症状の関与が推測された一例であり,示唆に富む臨床経過と病理所見が示され,本症例報告の意義は高い.【臨床経過】77歳女性.X-14日頃から歩行困難,易転倒性が出現した.X日に家族が浴槽内溺水の状態を発見し,救急要請,3次選定となり前医に搬送,溺水後肺炎であるが高次医療機関での入院不要の判断となり,同日当院に転院搬送された.JCS I-2,見当識障害,右外転神経麻痺,咬舌痕を認めた.当初は細菌性髄膜炎を含む痙攣発作も疑い,速やかにCTRX,ACV,抗痙攣薬投与の上,ICU管理とした.髄液は無色透明,初圧30cmH2O,細胞数および蛋白上昇を認めた.頭部MRIで右小脳橋角部に実質外腫瘤を認め,類表皮嚢胞破裂に伴う無菌性化学性髄膜炎が疑われた.ガドリニウム造影MRIT1強調像では造影増強効果を呈し,他の脳腫瘍も鑑別に挙がった.経過中に胆嚢炎,non-massive PE,DVTを発症し保存的に加療した.X+56日に開頭術を施行したが,腫瘤増大,JCS 30となり水頭症併発,VP-shunt造設術を追加した.摘出腫瘤の迅速病理診断で有核扁平上皮細胞組織を検出し,術直後に高分化扁平上皮癌と組織診断,類表皮嚢胞の悪性転化が疑われた.VP-shuntによる腹腔内播種を懸念したが髄液細胞診陰性を確認した.JCS I-1まで改善し,後療法の放射線全脳照射を行い,X+80日に転院した.【結論】溺水例は溺水後肺炎などの副次的病態への対応と原因検索が重要であり,中枢神経病変も想起すべきである.本症例は非常に稀な脳腫瘍による症候性局在関連てんかん,無菌性髄膜炎などが溺水に至った原因と推測した.浴槽内溺水に関連した報告例は散見されるが,原発性脳腫瘍を原因とする生存例は稀で,類表皮嚢胞の悪性転化による扁平上皮癌と診断された例は検索した限り本邦初である.術前MRIでの造影効果,急激な増大と症状出現は悪性転化の徴候であった可能性がある.通常の類表皮嚢胞でも術後の残存病変から稀に悪性化をきたす報告もあり,悪性転化も考慮する必要性がある.