[O102-5] 水中毒に伴う超重症低ナトリウム血症に対して神経学的後遺症を残さずに治療できた一例
【背景】水中毒による重症低ナトリウム(Na)血症に対する確立した治療法ない。脳浮腫予防のためNa濃度の補正は速やかに行う必要があるが、急速すぎる補正は脳の障害を起こす危険性がある。一方で、水中毒は予期せぬ大量利尿により急激な血中Na濃度の上昇を認め、管理が難しい症例を経験することがある。【症例】40歳台男性。統合失調症、水中毒の既往あり。不安から大量の水道水を飲水し、嘔吐、意識障害・痙攣を発症し当院に救急搬送された。来院時GCS3点で強直間代性痙攣を認め、ジアゼパム投与し気管挿管を行った。血漿Na濃度(以下Na濃度)91mEq/Lと異常低値を示しており、頭部CT・MRIで明らかな異常はなかった。水中毒による低Na血症の診断でICUに入室し、Na濃度の補正速度は0.5mEq/L以下を目標とした。500~1200ml/hrの多尿を認め、尿中浸透圧は130mosm/L(血清浸透圧:194mosm/L)と明らかな希釈尿であった。Na濃度の急激な上昇を防ぐため生理食塩水と自由水の輸液を行い、Na濃度を頻回に測定しながら適宜補正した。第2病日のNa濃度は108mEq/Lで、意識はGCS11点(E4VTM6)まで改善した。来院から24時間の水分バランスはIN約13600/OUT約18200mlであった。その後、尿量は500ml/hr程度に減ったが、約12時間でのNa濃度は変化なく、尿量減少目的にDDAVP点鼻スプレー(2.5μg)を使用した。尿量は100~300ml/hrまで低下し、第3病日にNa濃度115mEq/Lまで上昇した。同日より3%生理食塩水の投与を開始したがNa濃度の上昇制御が難しく、自由水輸液に10%塩化Naを持続投与するように切り替えるとNa濃度のコントロールは良好となった。第5病日のNa濃度は130mEq/Lまで上昇し、第8病日のNa濃度は141mEq/Lで意識は入院前と同じ程度にまで回復し、ICUを退室した。その後の経過は良好で第20病日に独歩退院した。【結論】水中毒に伴う重症低Na血症に対し、神経学的後遺症を残すことなく治療できた。10%塩化Naの持続投与はNa補充と自由水の輸液量を各々調整でき有効な治療法であった。