第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

患者管理

[O119] 一般演題・口演119
患者管理04

2019年3月2日(土) 08:45 〜 09:45 第21会場 (グランドプリンスホテル京都B1F ローズルーム)

座長:大槻 勝明(総合病院土浦協同病院看護部)

[O119-6] ICUダイアリーを読むことで変容する記憶と思い~ICU退室後訪問を通して~

樋口 麻衣, 井澤 絵里子, 棚橋 智都江 (国立病院機構 千葉医療センター ICU)

【目的】ICU入室中の記憶の喪失・混乱はPICS発症の一因として挙げられており、その予防にはICUダイアリーが効果的であると報告されている。ICUダイアリーを読んだ患者の反応について明らかにし、臨床におけるICUダイアリーの実践について考察した。【研究方法】対象は2017年4月~11月に、予定手術後24時間以上ICUに入室する事が予測された患者49名。介入群へは入室中に記載したICUダイアリーを用いた面接調査を兼ねた退室後訪問を実施、対照群へは従来通りの退室後訪問を実施した。本研究は所属施設の倫理委員会に承諾され対象者に同意を得て実施した。【結果】対照群では30名介入群では19名が対象となった。ICU入室前・中・後の記憶の内容、せん妄発症状況について近似している者でグループ分けし、記憶と思いについて抽出した。対照群において記憶の混乱をきたしている患者9名では、「せん妄体験を不快なものとして記憶し忘れたいと思う」「ICUでは幻覚があったことのみ記憶し退室後物忘れが多くなり活力が湧かなくなった」「記憶が無くても構わない」という発言があった。介入群では、記憶の混乱が無い患者4名と、記憶の混乱がある患者11名のうち一部の記憶は残る患者3名で「無くなっていた記憶が埋められて良かった」と回答が得られた。全く覚えていない患者1名は、体調の変化やリハビリ・退院へ向けた準備等で余裕がないことを理由にICUダイアリーを読んでいなかった。PTSD徴候を呈した患者2名もいたが「自分について書かれたものを読むことは滅多にできない体験だ」と話し、記載された内容を事実として受け入れられていた。しかし思い出したくない患者1名は想起することへの拒絶が強く日記自体に対し否定的だった。【考察】患者はICUダイアリーで記憶の穴埋めができた。だが記憶の混乱を来している者程ICUダイアリーに対する関心が薄かった。使用目的や活用方法について、ICU看護師だけでなく一般病棟看護師や家族と共通認識を持ち、継続して記憶の整理を働きかける必要がある。ICU入室患者は多様性に富み記憶や思いも多岐にわたる。より効果的に記憶の補填を行う為には、患者の関心を誘う個別性に沿った内容の記載が望ましい。【結論】ICUダイアリーは記憶の補填・修正に有用である。ICU入室患者は総じて記憶の喪失や混乱を来す可能性があり、ICUダイアリーに限らない個別性に沿った患者の記憶を補正するための看護介入の必要性が示唆された。