[O13-1] 高度救命救急センターにおける産褥期患者搬送アラート導入前後での患者予後の比較検討
【背景】日本の妊産婦死亡率は3.4/10万人(2016年)と報告されており、その死因として産科危機的出血が最も多い。産科危機的出血に対しては、止血処置と全身管理を早期かつ同時に行う必要がある。高度救命救急センターでの産褥期出血患者の受け入れに際して、早期集学的治療介入が重要であるが、知見が不十分である。【目的】産褥期出血患者に対する早期集学的治療の有用性を検討する。【方法】研究デザインは、後向き観察研究。対象は2013年4月1日から2018年8月31日、産褥期(分娩終了以降、母体の生理学的変化が非妊時の状態に復するまでの6~8週間)に、出血が原因で当院へ転院搬送された症例99例とした。なお、当院では院内システムとして、2016年4月以降、産褥期患者搬送アラートとして産褥コールを導入している。本コールは、産褥期の出血によるショックの転院症例に対して、産科医がコール適用の有無を判断する。なお、コールが適応されると、産科スタッフ、救命センタースタッフ、救急外来看護師、輸血部、放射線部、手術部、事務へ一斉周知される。さらに、ノンクロスO型RBC6単位およびAB型FFP6単位の輸血が準備され、手術部は手術準備を行う。本研究では、産褥コールの有用性を検討するため、導入前(3年、45例)および導入後(2年5か月、44例)間で、患者属性、前医および来院時Shock Index、輸血開始時間、在院日数を比較検討した。【結果】導入前後での平均年齢はそれぞれ、32.2歳 vs. 32.9歳(p = 0.566)、前医でのShock Indexは0.95 vs. 0.85(p = 0.076)、来院時Shock Indexは0.91 vs. 0.83(p = 0.202)と有意差をみとめなかった。一方で、平均輸血開始時間は73分vs. 34分(p<0.001)、平均在院日数は7.4日vs. 4.8日(p = 0.012)と有意差を認めた。死亡例は導入前にのみ1例(2%)観察された。【結論】院内システムとしての産褥期患者搬送アラート導入により、患者属性、重症度に変化はみられなかった。一方、導入後に治療成績が改善したことから、アラート導入の有用性が示唆された。産褥期出血患者への早期集学的治療は不可欠と考えられる。本研究は、単施設研究であることから、今後は、多施設共同研究により本知見の妥当性を検証する必要がある。