第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

鎮痛・鎮静・せん妄 研究

[O131] 一般演題・口演131
鎮痛・鎮静・せん妄 研究05

2019年3月2日(土) 14:50 〜 15:40 第22会場 (グランドプリンスホテル京都1F ロイヤルルーム)

座長:安藤 有子(関西医科大学附属病院高度救命救急センター)

[O131-6] 視覚化されたNRS表が痛みの管理へ与える影響

吉村 瑠璃子1, 大内 玲1, 鳩崎 千絵1, 吉田 孝介1, 松嶋 綾1, 櫻本 秀明2, 井上 貴昭3 (1.筑波大学附属病院 集中治療室, 2.茨城キリスト教大学 看護学部 看護学科, 3.筑波大学附属病院 救急集中治療部)

【背景】近年のガイドラインにおいて、患者の痛みの過小評価を避けるため、痛みは自己申告による評価が推奨されている。一方、人工呼吸患者やせん妄患者などコミュニケーションがとれない患者には客観的評価スケールであるBPSやCPOTが用いられているが、自己申告スケールの使用率は低い。我々は口頭説明によるNRSによって人工呼吸患者の痛みを評価しようと試みたが、多くの患者は自己の痛みを完全に表現できないことが多かった。そこで、視覚化されたNRS表を導入し、痛みの管理へ与える影響を評価することとした。
【目的】視覚化されたNRS表の導入が人工呼吸患者の痛み評価割合、および不穏やせん妄などの痛み関連アウトカムへ与える影響を明らかにすること。視覚化されたNRS表は患者の痛み評価を促進し、人工呼吸患者の痛みを適切に評価できるのではないかと仮説を立てた。
【方法】前後比較試験を実施した。2016年4月から2017年5月までをコントロール期間、2017年6月から2018年6月までを介入期間とした。介入期間では、大きく、かつ、見やすく印刷されたNRS表を各ベッドサイドに配置した。48時間以上の人工呼吸患者を対象とし、除外基準は認知症を有する患者、中枢神経疾患を有する患者、蘇生後の患者、ICU入室前に24時間以上人工呼吸管理を有した患者とした。データはカルテより収集し、視覚化されたNRS表を導入する前の期間と導入後の期間の痛み評価割合、および不穏やせん妄などの患者アウトカムを比較検討した。
【結果】対象患者は196名であった(コントロール群97名、介入群99名)。平均年齢は65±14歳、生理学的重症度を示すAPACHEIIスコアの中央値は22(17-28)であった。2群間における患者属性に有意差は認められなかった。人工呼吸患者におけるNRSを用いた自己申告による痛み評価割合は、介入期間で有意に高かった(63.3 vs 36.7%、p<0.001)。また、不穏(RASS>1)の発生率は、介入群において有意に低かった(13 vs 35%、p<0.001)。しかし、介入によってせん妄発生率、昏睡発生率は減少しなかった。
【結論】視覚化されたNRS表の導入は人工呼吸患者の自己申告による痛み評価を促進する。このシンプルな介入は人工呼吸患者の痛み管理を改善する可能性がある。