第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

体温 症例

[O136] 一般演題・口演136
体温 症例

2019年3月3日(日) 09:45 〜 10:35 第10会場 (国立京都国際会館1F Room C-1)

座長:三宅 康史(帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター)

[O136-2] III度熱中症による血管内凝固症候群・多臓器不全を呈したものの、後遺症無く退院した一例

松本 悠, 松田 律史 (医療法人徳洲会 札幌東徳洲会病院 救急科)

【緒言】北海道は気候の影響による発生率の低さと認知度の低さからか、熱中症の報告数は少ない。しかしながら、一度重症化すると、多臓器不全を呈して致死的になる疾患であり、少なくとも我々救急・集中治療医にとっては確実に把握しておくべき疾患である。今回、我々は北海道内で発症した重症熱中症を経験したので報告する。【症例】糖尿病の既往がある55歳男性、20XX年Y月に入浴から上がってこないことを不審に思った家族が浴槽内で意識障害を呈しているところを発見し、救急要請となったもの。救急隊接触時、上腕動脈で血圧測定不能であり、Load & Goで当院へ救急搬送となった。搬送後の病歴聴取からは約150分間の入浴であったと推察された。循環血液量減少性ショック、急性腎前性腎傷害の診断で集中治療室入室となった。翌日には虚血によると思われる肝機能障害と線溶亢進型播種性血管内凝固症候群が顕在化し、リコンビナントトロンボモジュリンの投与を行った。その後、急性尿細管壊死による腎不全や腸腰筋膿瘍などの並存症が顕在化したが、最終的には第40病日に集中治療室退室となった。第123病日にはリハビリテーション目的で転院となった。転院後25日目に自宅退院となった。【考察】Heatstroke STUDY 2008, 2010, 2012によると、III度熱中症の死亡率・後遺症発生率は共に10%程度であるとされ、中枢神経予後については初期の体温・Glasgow coma scale合計点・動脈血液ガス分析におけるbase excess・冷却時間などで規定される。本症例は体温・意識障害・冷却時間などにおいて予後不良の傾向を示し、血管内凝固症候群と急性肝不全、急性尿細管壊死などの多臓器不全を呈した症例であったが、大きな後遺症を残すことなく、最終的に自力退院となった。気候的に熱中症の発生率が低いものと予測される北海道においても浴室などの高温環境への長期曝露によって重症熱中症を呈する可能性があり、我々救急医・集中治療医は同疾患の治療について習熟しておく必要があると思われた。【結語】III度熱中症による血管内凝固症候群・多臓器不全を呈したものの、後遺症無く退院した一例を経験した。熱中症発生率が低い北海道の救急医・集中治療医であっても、重症熱中症の治療については習熟しておく必要がある。