[O137-5] 熱中症患者における下痢と重症度の検討
【背景】重症の熱中症患者では下痢が認められることがある。高体温により末梢血管が拡張して腸管への血流が減少し、腸管の粘膜損傷や透過性亢進を引き起こすため下痢が生じるといわれている。しかし、病態の詳細は明らかではなく、熱中症患者の下痢に関する過去の研究は少ない。【目的】下痢と熱中症の重症度との関係性を検討する。【方法】2015年7月から2018年8月までの3年間に防衛医科大学校病院救急部に搬送され、熱中症と診断された患者を対象とし、診療録を後ろ向きに調査した。患者を来院24時間以内に下痢を認めた下痢群と非下痢群に分け、2群間で年齢、性別、バイタルサイン、搬入直後の血液検査および血液ガス分析、来院時SOFA、APACHE II、転帰、治療内容などを比較検討した。統計学的検討はフィッシャーの正確確率検定、t検定で行い、p<0.05を有意水準とした。【結果】対象となった症例は32例であり、全例が3度熱中症で入院した。下痢群は7例で平均年齢は62.6±15.7歳、男女比は6:1であった。一方、非下痢群は25例で平均年齢は68.7±21.7歳、男女比は16:9であった。来院時のSOFA(p=0.03)、APACHE II(p=0.03)、血清乳酸値(p=0.01)、体温(p=0.01)は下痢群が非下痢群と比較して有意に高値であった。ICUへ入室となった症例は下痢群6例、非下痢群13例、ICUの平均滞在日数は下痢群5.3±3.1日、非下痢群3.5±1.4日であり、両群間で有意な差を認めなかったが、人工呼吸器管理(p=0.001)と昇圧剤(p=0.01)を要した症例は下痢群で多かった。平均入院日数は、下痢群31.1±42.9日、非下痢群12.0±13.7日で違いを認めなかった。予後に関しては、死亡は下痢群2例、非下痢群2例、自宅退院は下痢群1例、非下痢群12例、転院は下痢群4例、非下痢群11例であったが、いずれも有意差を認めなかった。【結論】下痢を認めた熱中症患者は重症度が高い。下痢は熱中症患者において重症度の指標の一つとなることが示唆される。今回の検討では下痢の有無は予後に影響を認めなかったが、さらなる検討が必要である。