[O14-1] 非閉塞性腸管虚血(NOMI)を合併した高安動脈炎の1例
【背景】高安動脈炎は、大動脈や基幹動脈などの大血管に炎症が生じ、血管狭窄や閉塞による様々な臓器虚血を合併するとされるが、腸管虚血は極めて稀である。一方、非閉塞性腸管虚血(Non Obstructive Mesenteric Ischemia:以下NOMI)は腸間膜動静脈に明らかな器質的閉塞がないにも拘らず腸管虚血・壊死を呈する病態である。心不全やショックなど全身の低灌流に起因する末梢血管攣縮が原因とされ、虚血性変化は血管支配に一致せず非連続性に生じることが特徴である。今回、NOMIを契機に診断した高安動脈炎の1例を経験した。【臨床経過】60歳代の男性。下垂体腫瘍術後の機能低下に対してヒドロコルチゾン・レボチロキシンを服用していた。搬送数日前から食後の腹痛を自覚していた。就寝中に右下腿の疼痛と呼吸苦を主訴に救急搬送された。初診時、呼吸数 30回/min、10L/分酸素投与下にSpO2 96%、脈拍数 147 bpm、血圧 62/35 mmHgとショック状態であった。下肢の運動障害はないが、両下腿に網状皮斑を認め、足背動脈は触知できなかった。血液検査では、乳酸値上昇、血小板数低下、血清クレアチニン値・肝酵素上昇と多臓器障害を呈していた。体温35.0 ℃、低Na血症、高K血症があり副腎不全の合併が疑われた。造影CTでは大動脈は全体に細径であり、左鎖骨下動脈は閉塞。上腸間膜動脈分枝の不整な狭小化と、回腸末端に腸管壁造影不良域を認めた。入院同日に壊死腸管切除術を施行、術中所見で腸管壊死領域は非連続性でありNOMIと考えられた。臨床症状と画像所見から高安動脈炎の診断基準を満たしており、高安動脈炎を背景としたNOMI、敗血症性ショック、副腎不全として持続的血液濾過透析や体外式膜型人工肺を用いた集学的治療を開始した。次第に循環動態は安定し、第3病日に再開腹すると、腸管壊死領域はさらに拡大しており追加切除と腸管吻合再建術を施行した。第13病日より再び発熱しショック状態となったため、造影CTを施行すると大量の腹腔内遊離ガス、門脈気腫を認めた。三度開腹したところ、吻合部の肛門側腸管に壊死を来したことによる縫合不全であり、壊死腸管の追加切除と人工肛門造設を行った。術後、真菌性腹膜炎やサイトメガロ腸炎を合併し多臓器不全が進行、第29病日に死亡退院した。【結論】本症例では、高安動脈炎による大血管狭窄が腸管血流不全をより重篤化させ、患者の転帰に影響した可能性がある。