第46回日本集中治療医学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

終末期

[O141] 一般演題・口演141
終末期01

2019年3月3日(日) 08:45 〜 09:45 第12会場 (国立京都国際会館5F Room 510)

座長:稲垣 範子(摂南大学看護学部)

[O141-6] 集中治療室における重症高齢患者の治療の差し控え・中止の意思決定

高橋 美帆1, 正木 治恵2 (1.東京ベイ浦安市川医療センター, 2.千葉大学大学院看護学研究科)

【目的】ICUにおける重症高齢患者の治療の差し控え・中止を意思決定していく実態を明らかにする.【方法】1施設のICUに入院する重症高齢患者3名とその家族,医師15名,看護師18名を対象に,約5か月間,参加観察及びインタビューを実施し,質的統合法(KJ法)を用い個別分析を行った.【結果】今回は3事例のうち1事例、患者Aについての分析結果を報告する.患者A個別分析の結果,以下7つのシンボルマークが編成された.1.主科・ICU医師,看護師間のコミュニケーション不足:各々の思いや考えを責任・立場・役割意識の相違から発言し難い.2.主科・ICU医師,看護師の責任・立場の違いから生じる葛藤・困難:自らの考えや思いが,他職種と共有できない.3.看護師の主科医師に対する不信感:患者に直接に関わりのない問題が主科医師の治療方針への判断に影響を及ぼしている.4.術後経過の中でわずかながらみられたA氏の改善の兆し:家族と一緒に過ごしたり気分転換に散歩に行ったりした際に患者の笑顔がみられた.5.医師・看護師それぞれの役割意識から無意識に生じるケア対象者の優先順位の変化:患者より医療者・家族の価値観や考えに焦点をあてた目標設定をする.6.医師・看護師の辛い現実を受容する家族への支援:常に寄り添い支持・共感する医療者の態度がある7.家族は母親の治療差し控え・中止を決断に至る:家族は患者の立場に立ち,患者の気持ちを優先した治療選択を考えられるようになる.また分析結果より,患者の状態悪化に伴い現在の患者の意思は誰にも分からず,さらに患者の予後予測が立たない状況下でも,医師・看護師は自らの役割意識から様々な葛藤や苦悩を抱きつつ,どうにかして治療方針を決定していかなければならないと必死で考えていた.その結果,医師・看護師は無意識に,患者よりもまずは代理意思決定者という重責を担った家族への支援の必要性を感じていた.家族への支援に医療者の焦点が転換されたことで,最終的に家族は患者の立場に立って治療方針を選択することができるようになり,結果として患者にとっての最善の治療に繋がっていたことが明らかになった.【結論】実際ICUの意思決定の場では,医療者・患者・家族が様々な相互作用を受けながら,事前意思だけではなく,今現在の患者の意思を僅かな手がかりから推類しそれが患者にとって最善の医療と判断し,治療の差し控え・中止を意思決定している実態があった.