[O142-3] ICU末期心不全患者に対して意思決定支援から終末期在宅療養を経験した一例 ~急性期から緩和ケアへ~
【背景】自分の人生の終焉を、自ら意思決定しながら生きていくことは大きな課題である。特にICUでは、終末期緩和ケア体制は十分に整っていない。近年、Advance care planning(ACP)という概念が生まれ、循環器疾患に対してもその重要性が高まってきている。今回、我々は末期心不全患者に対してACPを実施し、終末期を在宅で迎えられた症例を経験した。【臨床経過】<患者>77歳、男性。7/12、大動脈弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症、拡張型心筋症、慢性心房細動に対して大動脈弁置換術、僧帽弁輪形成術を行った。術後3か月でかかりつけ医へ紹介となったが、翌年3/12-26、心不全増悪にて入院。5/7、心不全悪化にて再入院。心機能はEF9%まで低下していた。スワンガンツカテーテル挿入下に積極的治療を開始すると同時に、カンファレンスにてACPを導入し患者家族支援を行う方針となった。<家族構成と背景>妻は3年前に急死。子供は長女、長男。日常生活は、長男との2人暮らしでクリーニング屋を自営していた。住居は、当院へ車で1時間半の距離と離れていた。キーパンソンは長女で当院近隣に在住。<患者の思い>自分の命はそう長くないことはわかっている。仕事や長男が気になる。妻が死んでから妻の部屋で暮らしている。死ぬならそこで最後を迎えたい。<長男の思い>病状に困惑している。看取る覚悟はまだできていない。<長女の思い>長男による介護継続は難しいと考えており、退院後は、自分が引き取り在宅療養で準備をすすめている。<経過>5/15、病態悪化のため急変の可能性が高く主治医から家族へICを行った。「本人の希望通り最後は家で看取りたい」と要望があり、在宅看取りへの準備を開始した。5/17さらに病態増悪し、同日介護タクシー(医師同乗、持続点滴継続)で退院された。退院7日目に家族に見守られながら永眠されたが、残された時間で親戚、近所の子供たち、お世話になった方々と面会され、思い出話と感謝の気持ちを伝えられたとご家族からお聞きした。【結論】末期心不全では、最終段階においても全身的苦痛緩和の目的で侵襲的な治療を含む原疾患の治療が選択肢としてあがりうる。しかしながら、時に急速に病態が悪化することがあり、医療者側だけでなく家族側も「死」を即座に受容できないことがある。ICUにおいても早期にACPを導入して患者家族の意思支援を行い、多職種連携を強化することが患者のエンドオブライフのために重要である。